創刊のことば―こころのかよう研究と交流の場に―
桑澤洋子  


 ついこのあいだ創立10周年を迎えましたが、もう満10年もすぎ、11年目になりました。

 創立当時は、文字どおり研究所の名にふさわしく、同志的な集まりといいましょうか、デザインという1つの目的にむかって、いろいろの分野のデザイナーの先生方や、構成教育関係の先生方、教養関係の先生方など、活気にみちて、会議という名の、実はデザインの本質と教育運営のディスカスに明け暮れました。

 未組織、未分科に近い時代の混乱や無駄も多かったかわり、和気あいあいとして、こころのかよう雰囲気でした。

 今日では、学校の規模も格段に大きくなり学校としての体裁、組織もととのい、運営も現代的になってうまくなりました。

 数年前より分科会制度ができたことは、専攻を同じくする先生方の交流や研究には都合がよくなりましたが、反面、分科会を異にする先生方の間は疎遠になるという欠陥を生じてきました。

 そんなこともあってか、ひとしく桑沢デザイン研究所で教育にたずさわる専任の先生方が教授の研さんをつみ、研究し、一同が交流するための研修会がもうけられ、予算も配されるようになりました。

 部外より講師を招いたり、部外で催されるよい講演会や講習会などには随時、研修する便宜もはかられるようになりましたが、部内で日頃、誰がどんな研究をしているのか知るすべもなく、お互いに研究の成果を分かちあったり、批評しあったり、よい意味で刺激しあうことは少ないように見うけられました。

 こうした実状にあるとき、皆さんが日頃、研究していることを自由に発表しあい、交流することを目的にした「桑沢デザイン研究所・研究レポート」誌が刊行されるはこびとなったことは、よろこばしいことだとおもいます。

 本誌は、いわゆる大学の紀要とは異なり、桑沢デザイン研究所独自のものとなることが期待されます。さしずめ、予算に限りがあるので、大きな規模のものは望めませんが、ほんとにこころのかよった光ったものになることを望んでいます。

 はじめから力みすぎて派手にスタートして、あとが尻すぼみになるよりも、小さく生んで大きく育つよう、みんなで息長く育てていくことを祈ってやみません。