35ミリ一眼レフカメラへの提言
河合玲二
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 しかし、他のカメラがそれぞれの使用分野により最高能力を発揮するのに較べて常に一歩ゆずる点が問題となる。

 例を上げれば、以前に新聞カメラマンのトレードマークのように用いられた大型ネガに準広角レンズとフラッシュを組合わせた用法に対し、画角、画面サイズ、頑丈さの点で及ばず、同じ35ミリでもレンジフィンダー型式のカメラに対しては、標準から広角レンズの性能が−段劣つている。

 また、隠密に取材する際、広角レンズ専用カメラ、ハーフサイズカメラ等に対し寸法、重重、シャッター音、レンズ前面々積が大きく目立ちやすい等で不利な点をもっている。

 このような弱点は各状況の下で完全に使用不可能とはいえないため、一般には軽視されているがシリアスな制作態度の上では特に問題となって来る

 この他、ミラー反転のためのタイムラグがかなり熟練しても、なお決定的なシャッターチャンスをとらえるに不利がある点と、−般的には長所である正確で見易いファインダーが結果的には細部の画面構成にとらわれて写真本来のアクチュアルな表現を弱めがちであるといった問題もあり、一度過去の形式となつたレンジファインダーカメラへの評価が再び高まっている現状である。

 以上のハンドカメラがいわば「決定的瞬間を狙う」ものとすればビューカメラ系では「決定的ポジション」を目的とするといえる。

 ビューカメラで最も必要な条件は完全にピントグラスの映像を観察できることである。

 以前には、この種のカメラの大きなネガサイズが重要視されていたが、現在の進歩したレンズ、感光材料、印刷技術等から見て、その意義は必ずしも失なわれていないが、条件としては二義的なものとなっている。

 このような条件から見ると、35ミリ一眼レフカメラはこの分野で他の機種で代替不能の領域を持っていると云える。

 ビューカメラを使って制作する場合、最も重要なことは被写体に対して決定的な視点(ポジション)を得ることにある。

 その一方に超遠距離があり、他方が超近接位置である。作家はその中で最も自分の内部要求に合った空間を創造し発見してゆかなければならない。

 35ミリ一眼レフカメラはこの両極端で大型ビューカメラの欠点をカバーすることができその存在は他種カメラの代替を許さない地位にある。

 35ミリ判ネガに対し、焦点距離1〜2メートル前後の超望遠撮影は肉眼の常識的な認識を越えた空間を創造する。その場合、大型カメラでは不可能ではないにしても、実際上は機材重量の飛躍的な増大で非常に困難なものとなってしまう。

 また超近接点でも35ミリ一眼レフは決定的な利点がある。

 ネガ面に実物と等倍から数倍大の拡大像を求め、新しい視角を創るマクロフォトと呼ばれる領域は以前からあったが一眼レフの発達によって、はじめて一般化したものである。

 もちろん大型ビューカメラでも不可能ではないが、やはり操作が鈍重で難かしいものと なり、この場合に要求される、なるべく多くのサンブルを手早く処理するといった点で難点がある。

 以上のように、35ミリ一眼レフカメラの位置は単なる多用途カメラであるというより、ビューカメラの一種として解釈する方が、より高い評価ができるのではないだろうか。

 しかし、この点で現在、市場にある商品はかなり、曖昧な仕様の設定をしている。

 いわゆる最高級カメラといわれる分野のものは、不必要な機構を追加して鈍重なものとなり、一方機構上の信頼性は低下して行き、前記の長所である超望遠撮影で起るミラー切れ、(反射鏡の寸法不足によりピント面の一部が見えなくなる現象)とか、マクロフォトで問題となるミラー振動等の問題点は一向に改良されて行かない。

 また、実際に一眼レフカメラの性能を向上できる特殊パーツについても、未消化なもので性能的にも不充分なものしかない。

 一方、中級カメラと云われる分野では、販売的な見地からと称して質の向上を怠り、誰にでも使える多用途カメラという点での信頼性の薄いものとなっている。

 こうした、ある一つの機種に現れる事が結局、日本のカメラ工業で生産高で世界第一位でありながら、質的に一流と見なされない原因である。

 もちろん総ての製品が、ここで述べたように厳密なものである必要はなく、大多数は一般人にとって使い易い多用途なものであるべきではある。しかし、これは質的に低いものではなく、各部分の精度において今一段の向上が必要である。

 そして一方、或る程度の採算無視をしても本来の性格を活かした、高性能、高能力な械材を製作することが、我国カメラエ業の地位を強固にできるのではないかと思うが、我々としても単なる思いつきや、場当たりでない性能要求を出すべきであり、現在出ている少数の真剣な製品を正しく評価し、育てて行く責任を感じなければならない。

 なお、稿の終りであるが、この文と同様なテーマのものを38年7月発行の特集フォトアートに発表した事をお断りする。


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