ラグランスリーブの研究
柳沼恵美子
谷 二三
福村千英子
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10、コート原型による実験

 ブラウスと同じ理論と段階で、実験した。


図22
図22

図23
図23

 図23は4の普通袖を自然に置いて、ラグラン線と結んだ基本的な型である。全体によく整理されていて無駄が無い。したがって服巾の狭い型や、ルダンコートなど身頃をシェープするものによい。又最近のセミラグランのシルエットを表現するのにも適している。(写真12−1、2、3)

写12-1 写12-2

上 :図12-1
右上:図12-2
左 :図12-3
写12-3

 3.5の袖(必要に応じ3.75を使用する)、此の袖は一番オーソドックスな、又はポピュラーな形と考えられる。ストレート・コートとして原型の後身巾を更に増量し、袖刳も刳り落してある。ここでの袖山は前述の通り、刳落し分を袖山高にプラスしてあることを留意されたい。また前後袖落度差を10°とし後袖の運動量を加えてある。(図24)

 写真13ー3に見られる後脇のドレープは、運動量とは別に一つのシルエットを形成するものである。


図24
図24

写13-1 写13-2

上 :図13-1
右上:図13-2
左 :図13-3
写13-3

 3の袖、同じストレート・コートであるが袖巾が広く据りも浅いため、直線的な面を感じる。運動量が更にふえているという製図上の理解を裏づけにしなくても、此の袖から、若々しさとか、スポーティな感覚を受取ることが出来る。ブラウスの説明と同様に、袖口にカフスをつけるとか、ベルトで締ることによって美しい線が生れる。(図25)

 側面から見ると、前後のドレープの間に袖が畳み込まれるようになる、身頃のゆとりが無くては此の線は生れない。したがってフィッ卜した服には不向きである。(写真14−1、2、3)

 応用としては、事務服、スモック、ジャンパー等に適している。


図25
図25

写14-1 写14-2

上 :図14-1
右上:図14-2
左 :図14-3
写14-3

 2の袖、これはドルマン風なシルエットを持ったラグラン袖を実験した結果である。袖刳が、ウエスト近くまで刳落ちているのが特徴である、したがって袖山高が高くては運動ができず、袖の機能が失われてしまう。一番少ない据りで描くことによって、キモノ袖的な感覚とシルエットを得ることが出来た。(図26)

 特徴として、写真15−1のように、袖口が太いままでは肩から沢山の皺が流れる。袖口を締めると美しくなる写真15ー2−3ー4−5ウェストにべルトを締めることによって、袖の運動量をブラウジングが助けるので動きが楽になる。(写真15ー6)写真に表わしてないが、袖口を筒袖のように細めることも、よくされる方法である。

 この袖の理論はブラウス原型にも応用出来る。

 図27の製図は応用として、据りが強く肩線の丸みを強調したシルエットを出すための、実験によるものである。袖落度が強くなると上腕部の袖巾が少なくなるので、袖山高線上で厚みを出し、ふくらみを加えることによって、ボリュームのある袖の線が得られる。機能性には欠けるが、柔らかみがあり、ラグラン袖の変化の一つとして、別な感覚のものを表現することができる。

写15-1 写15-2
写15-1   写15-2

写15-3 写15-4
写15-3   写15-4

写15-5 写15-6
写15-5   写15-6


図26
図26


図27
図27

 以上の研究に於て袖山高の分割の方法、及び、その名称については更に検討を要するものである。特に名称は記憶しやすく、数理的にも適切なものを決めなければならない。

 また基本になる一枚袖の作図法で特に袖山の描き方は、今迄概ねフリーハンドに頼り、形よい袖山を描くには相当の熟練と勘が必要であった。個人の感覚的な違いも、むしろ可として考えられて来たと思う。しかし現在の短期間な学校教育に於いては画一的であっても、個々に歪みの少ない作図法を考えなければならないと思う。本研究で使用しているものは、その一端として実験的に試みたものであるので、更に検討を加えなければならない。

 また、腕を包む袖そのものの型についても研究の余地が残されている。

 なお、此のラグランスリーブの研究で得た袖の理論と、各数値を応用すれば、キモノ袖や各種襠袖の袖落度又はその作図法に移行することは簡単であり、実験の結果ほぼ確信を得ることが出来たと思う。

 最後に、現在洋裁用語というか、衣服の構成上の各部位の名称の統一がされていず、大変莫然とした呼び名が使われている不便さが、痛感される。

 なお、この研究の中に40年度夏季講習会に発表したものが一部含まれていることをお断りしておく。写真は河合玲二氏の協力を得た。


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