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完了形の構成
矢野目鋼  


 はじめに完了形という文法の用語をだした。この語は特に過去の意を含むこともあるが、ここでは時制に関係のない直接法的な完結の形をさすことにする。その意図は、「構成」というコトバが、これまで「デザイン」とともにながらく流通しているあいだに、他の多くのコトバと相互に誘引しあい、それらと情意的に連合して(たとえば「明治」とよべば「愛国」とこたえるような、たばになった)一つの観念群をなしているところから、それをきりはなすためである。この観念群の中には、在来の美術史や楽典理論や情動的な印象批評用語から援用借用されたらしいところの、リズム感、ハーモニー感、バランス感、そのたの「造形感覚」語が混淆している。「造形の文法」というコトバも、すでにそのような群の中で転移拡散しているらしい。もうこれ以上に、また別種の観念をあらたにそこに注ぎこんではならない。この稿はそのようを観念連合群から「構成」を救済し、その基本にある直截、平明、簡潔な方法論を探究しようという意味をもって、わたくしの教室で実施した課題の一事例を報告する。

 まず発端に正方形をおく。正方形をもって発端ときめる根拠はなにかという間に対しては、わたくしにはまだ答えることができないのだが、少くともそれを便宜的に利用してみるとか、またはその神聖を信ずるがためではなく、形のなりたちについての、まだ漠とした一つの仮説を確めるという動機をもってであるということができる。(ここではその内容にはふれないが、ブルーノ・ムナリの著した「正方形の発見」という小冊には、正方形の含む、またそれからでてくる多様多彩な構造、機能、形態が示されていて興味深い。なおこれと並んで同じ著者による「円の発見」もある。)

 正方形は4つの辺と4つの直角とからなっている。等長の線が連続して4回出現するが、それらは線分の一端において次のものの一端と結合して直角をなし、これを4回くりかえす。第4のものは第lのものと結合して一つの四辺形を閉じる。

 1個の正方形があり、つづいてそこに前のものと等しい第2の正方形をとりだし、第lのものと第2のものとの関係を定める。すなわち連続的に結合する、すなわち一辺の全長にわたって共有するように連接させ、ここに2個の正方形の相連接した1個の長方形ができる。これを2正連形とよぶことにする。次にひきつづき第3の正方形をだし、同じ結合の式により3正連形をつくる。3正連形には、直線上の1方向に3個が連続する形と、カギ型に曲る形の2種があり、それ以上はない。次の4正連形も同じ規則に従ってつくる。これには5種の形があり、それ以上はない。以下あとに続くものは図に示すとおりである。このように一定の式をくずさないで単位とする正方形の数をふやし、でてくる限りのすべての形をかぞえたてることはどこまですすめる必要があるか。それは8正連形にいたって一段落する。その理由はすぐあとで説明される。とにかく単なる「単調さをきらい、それを破るための変化」を多く求めるといった類の動機には縁がない。8正連形にはなん種の形がでてくるか。その数は多分370と380のあいだにある。7正連形では多分100と110のあいだにあり、6正連形ではたしかに35だけあり、5正連形では確実に12だけある。なおすでにのべたように、4には5、3には2、2には1、1には1である。「たぶん」といわざるをえないのは、つぎつぎとかぞえあげて行く以前にあらかじめきめておくことができないため、また重複する形がでたとき見逃がさず、描きためたものをもってすべてをつくしたとする確信がもてないからである。伶悧を数計算をしようにもよるべき数式がたぶんたたない。最近の高性能の電子式計算機械を利用して、人間が机上で行うことと同じ仕事を代理させれば、より信頼できる解答がえられるだろう。


完了形の構成
完了形の構成


 以上のような正方形の式に従って考えられるlからはじまるn正連形のそれぞれを、さらに第二の結合の式に従って組み立てる。この第二の結合とは、たとえば2正連形においては、同種同等の長方形のいくつかを相連接させる、このときその長方形の含む単位正方形の次元においては第一の結合式に従い、さらに、できるだけ数多くの形を連接させること、そして組みの中のどの長方形をとってみても、それが組みの中の他のすべての長方形と結合しているようにという規則である。この第二の式は第一の式から独立した別種のものではなくて、第一の式の内容そのままを言い換えたものであり、形においてつねに両方が同時に成立つことと考える。2正連形について、このように組織結合されてできる形は、3個の2正連形が「に」の字型に連接する形が考えられ、4個以上の組み立ては成立し得ず、なお2正連形は長方形をなすものただ1種に止まるので、上の「」型をもって可能なるもののすべてをつくしたことになる。説明を進める順序は逆になったが、さかのぼってl正連形の場合をみると第二式の結合は、第一式による2正連形のなりたちそのものにほかならない。

 このように1から始めて、次々とn正連形のそれぞれを組み立ててみると、8正連形に至ってはじめて4個の結合を許す形があらわれる。370〜380種の8正連形のうち、8種について、第二式による4個結合の成立が知られた。9正連形に進むと急に殖えて30種以上におけるそれの成立があらわれることと、平面においては5個結合の不可能なことは明らかなので、それ以上を調べる必要はないと考える。2個結合に止るのははじめのl正連形、および5正連形に属する「」型だけであり、そして8連以下の他はすべて(上にのべた8連に属する8種を除いて)3個結合とをり、さまぎまの形の組み立てができる。

 発端から8連における8種に至る過程の各段階においては、原理的を第一・第二の結合規則のほかに、なんらかの系統的を操作手順を工夫して着実な進行を期する必要があり、それなくしては確かな判断がえられないので、これがこの課題の主要な面の一つになっている。そのことは例図にあらわれている。

 次に、附随的を第三の問題として、パズル玩具にあるような「つめあわせ」を主題とすることがあるが、それに立ち入ることはさけた。


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