研究体制の改革
矢野目 鋼
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<科学と芸術の綜合>

 福岡市に新設された「九州芸術工科大学」。環境設計、工業設計、画像設計、音響設計の4学科で構成される。科学技術の独走を芸術によって是正する、技術の人間化というテーマはまさしく時代の要請であろう。ひとくちにいって「科学と芸術を総合した高次のデザインの研究」と小池新二学長。「新しい観点からのデザイン、新しい分野の研究、たしかに興味深い大学。しかしそれにふさわしい研究スタッフ、体制、施設をととのえるのは容易なことではないだろう・・・」と小池岩太郎教授(芸大)。第一に人材難。第二に水と油のような工学と芸術を結びつけ、多種多彩な分野を広く総合するような体制がはたして可能か?しかも4年以内には大学としての姿を一応ととのえてしまわなければならない。さしあたり、プロジェクト・システム、たとえば陸橋のあり方などをテーマとして、4つの講座の枠をこえてするグループ研究を考えているそうである。しかし旧来の講座制をとっている点、また「人間」の概念が阪大や九大の場合とはちがうようだがそれはどうかなど、杷憂であればよいが、とにかくこの不安なテストケースを見守ろう。


<研究所の共同利用>

 43年7月愛知県犬山市の丘陵地に新設京都大学霊長類研究所の第一期工事が終った。まだ開所式もあげていない。この研究所の計画は、神経生理、形態基礎、社会、心理、変異、系統、生理基礎、生活史の9つの部門をもって、ニホンザルからチンパンジーに至る霊長類の社会学的・生態学的研究と、医学的・心理学的研究を結合して、新しい霊長類学の領域をひらこうとする野心的をものである。

 現在国立大学付置の研究所数は22大学に70研究所。このうち全国共同利用研究所は5大学に12設けられている。このような制度は、戦後の科学の急速を発展と、そのため研究そのものが全国的に共同で行われる必要が生じ、分野によっては巨大精密を設備を要するようになったことから生れた。昭和28年の京大基礎物理研究所と東大宇宙線観測所(乗鞍岳)の創設がその最初であった。いま素粒子研究所の設立が審議中である。

 これらのはらむ問題は、全国的組識としての運営と、所属大学の自治との調整、共同利用か研究かの矛盾、またそれを目的として設立したメイン・テーマ自体が時代とともに学問的意義を失って行くこと、もう一つは活動の中核となる研究員の中に学問の最前線から脱落する者のでてくること、などである。常に新鮮であるために研究所に新しい血をと人材の交流が強く求められるが、任期の問題、任期後の配属の問題などあって、人の問題はむつかしいらしい。研究所を閉鎖社会にしてしまわないため、名大プラズマ研究所では研究員公募制をとっている。


<ビッグ・サイエンス>

 これまでの大学の枠内ではすでに手におえない、巨大な金と人を喰うビッグ・サイエンス(巨大科学技術)はやはり近年の科学技術のめぎましい発展にともなって必然となったものである。いま問題となっている素粒子研究所、そのた開発途上にある原子力をはじめ、宇宙開発、海洋開発などのビッグ・サイエンス、その特質は@国家的な重要性をもつ超大型の研究開発、A先導的を分野の開発、B膨大な経費と人材を要するもの、C広範囲にわたる科学技術を総合的に利用するもの、といわれている。(42年・科学技術白書)。
 
 このような開発研究をすすめて行く上での問題点は、ビッグ・サイエンスのテーマを選ぶ基準があいまいではいけないので、@権限ある第三者機関を設けて、テーマの選択を委かし優先順位をつけさせる。Aその場合、科学的・技術的を立場からばかりでなく、社会的・経済的を影響をも考慮し、専門的意見をまとめて政府に勧告する。Bこの機関のメンバーは国家の重要な科学政策の決定に参加するのだから、新しい専門職として大学などの教授とは兼任させない。このように選択と優先なくしてはビッグ・サイエンスは成立し得ず、それは政策に大きくかかわっている。

 現実には、学術会議の勧告は政府の政策と対立して、素粒子研の場合のように計画は暗礁にのりあげたままとなる。政策と巨大産業の結びつきという面からのチェックも簡単な問題ではないが、一方の学術会議の現体質については、学術会議が学界の意思を統一する機能と、選挙の本来の機能を回復することが第一の前提であると指摘されるような問題をはらんでいる。そしてこれはビッグ・サイエンスのみの問題ではなく、わが国の研究と教育の体制の全般的を改革と深く関連している。


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