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桑沢デザイン研究所教員研修会レポート2012

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メディア・モノ利用の創造性―「映画のなかのメディア利用」研究(その2)―御手洗陽|デザイン学担当0.鑑賞から観察へメディア・モノ利用の視点から映画を読み解くデザインやクリエイションに眼を留め、創造性を見てとる能力を培う。日常的な経験に作用する具体的な力を知るには、その前に立ち止まり、深く関わることが欠かせない。そこで近年講義や演習で取り組んでいるのが映画を観察するという課題である。「映画のなかのメディア利用」と呼ばれるこの課題は、映画版の『世界の中心で、愛をさけぶ』において、原作小説には登場しないウォークマンが、主人公によって用いられているのに気づいたことから着想を得た。高校の同級生であった恋人が、亡くなる前日の晩に録音した声が、十数年経過した後にようやく届く。そのことで主人公の男性は現在の婚約者との再出発を決意するのだが、それを実際に可能にしていたのはウォークマンやカセットテープ、カーディガンなどのメディアやモノなのであった。通常映画は鑑賞するために見る。しかしこの課題では映画を観察するために見る。観察の対象になるのは作品世界のなかで利用されるメディアやメディアとして用いられているモノである。登場人物がどのようにメディアやモノを用い、どのような出来事を引き起こし、どんなストーリー展開の実現へ関与するのか。メディア、シーン、ストーリーの三つの水準を行き来するという、ふだんとはおよそ異なる仕方で見ることによって、あらすじや俳優の演技以外の見過ごされてきた要素が、次第に目に留まるようになる。この課題をクリエイションにおける問題の発見と解決について学ぶ機会だと言い換えることもできる。作品世界の制作におけるメディア・モノの利用という視点から、結果として生み出された映像を探査すれば、施された工夫や発揮された創造性を見てとれる。計画したストーリー展開上、どうしても実現したい出来事があり、そのために登場人物が何を用いるとよいかと考えられる場合もあるだろう。また現場でのアイデアによって急遽、用いられることもあるに違いない。実際に制作者がどのように取り組んだのかは、作品毎に改めて調査する必要があるが、結果として残された映像を手がかりに創造性を見てとること、それを批評的に評価することは充分に可能である。そこに残された映像は制作する上で直面した問題とそれに応じて図られた解決の結晶であり、痕跡であるからだ。また受講者と共に研究を進めるなかで、創造的なメディア・モノ利用は、どうやらいくつかの種類に分けられることがわかってきた。例えばストーリーを展開させる重要な出来事で、同一のメディアやモノが反復して用いられる場合がある。この場合はそのメディア・モノがストーリーを構成することになり、改めて眺め直すと、それ無しでは作品が成立しないことが判明する。またそのように要所で多用されることはなくても、ストーリー上の重要な転換点において用いられる場合がある。またさりげなくなされた利用がじつは効果的であり、作品の評価に密かに関わる場合も少なくない。本稿では受講者が創造的なメディア・モノ利用という視点から取り上げたもののなかから、印象に残ったいくつかの作品について記してみたい。創造14