桑沢デザイン研究所教員研修会レポート2012 page 23/76

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桑沢デザイン研究所教員研修会レポート2012

郊外へ越してきた姉妹が、母の死の影に脅えながら、不思議な生き物をはじめとする他者と出会い、どのように成長していくのか(『となりのトトロ』)。その問いへの答えとして、隣に住む少年とは間接的に<貸す-返す>ことでより親密になり、<雨に濡れないように貸す-雨音を聞くために借りる>ことで不思議な生き物との交流が実現するなど、傘がじつに多様な仕方で利用されている。また借りてかけるという利用がなされた電話に加えて、電報、自転車、バスも用いられていた。BBS、電子メール、ツイッターが用いられる作品では、対面空間に加えてネット空間での関係が加わることで、またそのうえで対面空間において改めて出会うことによって、関係が微細に変化するプロセスが実現された(『リリイ・シュシュのすべて』『ユー・ガット・メール』『モテキ』)。学校では自分のことをいじめる少年がBBSを介して共感し合う相手ともなり、商売敵の男女はそれと知らずにメールを介して互いに関心を惹かれる関係になる。また同じ部屋にいるのに独りでパソコンへ向かう女性に、男性はツイッターを介して振り向かせる。さまざまな映画作品を手がかりに、メディア・モノの利用という視点から、制作時に発揮された創造性を見てとろうとする。それにより具体的なメディアやモノを用いて出来事を生み出し、世界や物語を生み出す仕方を学ぶことができる。今後も講義や演習等を通じて、デザイナーやクリエイターを含む、情報を生み出し経験を形づくろうとする人たちと、創造性を見てとる眼を身につけるプロセスを共有したいと思っている。●註1.本研究は講義･演習の際に、口頭報告やレポートの提出を通じて、共に研究を進めてくれる受講者によって支えられている。下記に講義･演習の科目名を記すことで、改めて受講者へ感謝の意を表したい。桑沢デザイン研究所総合デザイン科「メディア文化研究」｢メディア論」、桑沢デザイン研究所デザイン専攻科「空間デザイン論」「デザイン概論」、関東学院大学経済学部「メディア論B」「メディアと文化[メディア環境論]「メディアと文化[メディアと芸術]」、会津大学短期大学部産業情報学科「メディア論」、東京理科大学大学院イノベーション研究科「メディア未来学」。2.本研究は映画というメディアの形式よりも内容へ関心を向けている。作品世界の構造やストーリー展開を生み出すために、また構造や展開へとつながる出来事を生み出すために、登場人物がどのようにメディアやモノを利用しているかを観察しようとする。あくまでも映し出されている作品世界を観察することが重要であるため、同じ映画の内容に関わる研究でも、映像へと置換される前の、いわゆるシナリオの研究をそのまま活用することは難しい。また従来の映画研究の多くが撮影、編集、音響等、むしろ内容よりもメディアの形式へ関心を抱いてきたため、活用できる知見はあまり見当たらず、今のところ、小道具や衣装に関する言及が散見された程度に留まる。●参考[文献資料]御手洗陽「『映画のなかのメディア利用』研究―『世界の中心で、愛をさけぶ』を素材に」桑沢デザイン研究所『研究レポート』37号、2010年。嶋田厚『デザインの哲学』潮新書、1968年。嶋田厚編『現代デザインを学ぶ人のために』世界思想社、1996年。ジェニファー・ヴァン・シル『映画表現の教科書』吉田俊太郎訳、フィルムアート社、2005年。J・オーモン+A・ベルガラ+M・マリー+M・ヴェルネ『映画理論講義』武田潔訳、頸草書房、2000年。スティーブン・ジェイ・シュナイダー編『改定新版死ぬまでに観たい映画1001本』野間けい子訳、ネコ・パブリッシング、2011年。[映像資料]『世界の中心で、愛をさけぶ』行定勲監督、2004年(DVD、東宝、2004年)。『ローマの休日』(Roman Holiday)、ウィリアム・ワイラー監督、1953年(DVD、パラマウント映画、2003年)。『となりのトトロ』宮崎駿監督、1988年(DVD、ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント、2001年)。『リリイ・シュシュのすべて』岩井俊二監督、2001年(DVD、ビクターエンタテインメント、2002年)。『ユー・ガット・メール』(You've Got Mail)、ノーラ・エフロン監督、1998年(DVD、ワーナー・ホーム・ビデオ、2000年)。『モテキ』大根仁監督、2011年(DVD、東宝、2012年)。21