ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

図G.『昼下がりの情事』図H.『g@me.』『昼下がりの情事』(B・ワイルダー、1957年)では、調査を通じて収集された記事や写真、さらに男性が備忘のために用いる録音機が、音大へ通う女学生に大人の男性との恋を夢見させ、富豪の遊び慣れた男性に真剣な恋愛感情を抱かせるように働く。女学生の父親は私立探偵であるために、親子二人で暮らす自宅の書斎には、記事、写真、レポートなどの調査書類を収納した棚がある。そこにあるのは、父親からみれば浮気調査などで判明した身元や素行に関する書類であるが、年頃の娘にとっては強く興味を惹かれるゴシップネタにほかならない。彼女はあるきっかけから、この書類を通じて知った、プレイボーイとして名高い富豪の男性へ近づく。そして同じように書類を通じて知り得た、さまざまな男性との間に起きた架空の話を披露し、まるで遊び慣れているかのようにふるまおうとする。また富豪の男性は仕事の備忘録として録音機を用いるが、彼女はそこにも架空の男性遍歴話をこっそり吹き込む[図G]。男性は夜独りになってから彼女の声が残されていることに気づき、何度もくり返し聴き直して嫉妬に狂い、泥酔しながら長い夜を過ごす。こうして女学生は遊び慣れた男性の気を惹くことに成功し、男性はじつは慣れない恋にとまどう女学生に、見事に翻弄されてしまう。『g@me.』(井坂聡、2003年)では、携帯電話での動画メールを介して、狂言誘拐を実行しようとした女性が、そのための手段として利用した男性へ、今度は本気の恋愛感情と相手への信頼を示そうとする。広告代理店に勤める若き男性が、クライアントの副社長に仕事の邪魔をされ、深い憎しみを抱く。彼は副社長を父に持つ娘が家出をしようとしたところに遭遇し、同じように憎しみを抱いているというその女性と共謀し、二人で狂言誘拐を仕掛けようとする。メディアに詳しい男性は、パソコンや携帯電話のメールや電子掲示板を自在に使って交渉をすすめ、ホテルから電話をかける際にわざと有線放送から電車が通過する音を流し、居場所を誤認させようとする。しかし、娘は父の副社長と共に家族の秘密を隠すために狂言誘拐を仕組み、代理店の男性は狡猾に利用されただけだった。それにもかかわらず、誘拐を演ずるうちに、娘は次第に彼へ恋愛感情を抱いてしまう。だからこそ二人で海外へ飛ぼうと持ちかけられたときに心から歓び、先に空港で待ちながら携帯の動画メールを用いる[図H]。自分の姿と声を送信し、今度は何も隠すことなく、いまここであなたのことを待っているのだと、男性へ伝えようとする。『ル・アーブルの靴みがき』(A・カウリスマキ、2011年)では、コンテナや小包、台車や船など四角いモノ、より精確には「四角く包んで隠すモノ」を介して、地域の人びとが互いに協力することで、さまざまな奇跡が生み出されていく。靴磨きの男性が、ある日貨物用コンテナに身を隠してやってきた不法移民の少年を、密かに自宅へかくまおうとする。少年は移民排斥の圧力が高まるヨーロッパ社会を流れ行く者の一人であり、男性自12