ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

ページ
16/72

このページは 桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013 の電子ブックに掲載されている16ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

2.本稿では「視点を変える」ではなく「視点が変わる」ということばを選んだ。後になってから、そうなったことに、ふと気づくという含意を、どうしても残しておきたいためである。事後的であらざるを得ない理由は、おそらく私たち自身の認識の機制(メカニズム)の問題に関わってくる。身体と環境との関係は、それまでと異なるようにずらされることではじめて、当事者によってふり返られる機会が生まれる。そして身体の働きが多様であり得ること、また同時に環境の立ち現れ方もまた多様であり得ることが突然直観され、世界の幅や奥行きが、より豊かに想像されることになる。そしてこのような身体と環境の関係を異ならせるようなずれを生み出しうるのがメディアである。メディアがいつもと異なる仕方で利用されることで、しばらく身体の延長あるいは身体の一部と化していたメディアが、潜在的な利用可能性の拡がりと共に再発見され、メディアを通じた環境イメージの立ち現れ方も変容する。このときに「視点が変わる」という出来事が生じていたことが、はじめて経験として、事後的に確定される。3.例えばオラファー・エリアソンは光を介して観客を動かし、視点の変化を誘おうとする。そこではただ一つだけのスポットライトが天井から床面へ投射され、それ以外に何の仕掛けも見当たらない(『Wannabe /ワナビ』、1991年/ 2009年、金沢21世紀美術館)[図I: http://www.olafureliasson.net/exhibitions/your_chance_encounter_25.htmlより引用]。通常時の照明のように何かを照らし出すや、周囲を明るくするために用いられているわけではないらしい。戸惑ったまま、しばらく他の人の反応を観察していると、観客はみな次第に光へと近づき、ときに光に包まれようとする。その空間では、ただ光というメディアだけを介して、それに関わろうとして動く利用者を生み出していた。これと同じことが、光を介して彩色された空間でも展開される(『あなたが創りだす空気の色地図』2009年、金沢21世紀美術館)[図J:http://www.olafureliasson.net/exhibitions/your_chance_encounter_31.htmlより引用]。そこには三原色の光源が上部に載せられた簡単な囲いが設置され、観客はその内部へ足を踏み入れる。すると三原色が微妙に混ざり合う空間にからだごと包まれ、少し歩いて移動すると、その位置でなければ見えない混色の状態へと変化する。そのことに驚きながら移動し続け、とりまく色彩が変化し続ける様子を愉しむように、気づくと観客は導かれている。メディアを介して、視点の移行・変化を誘われ、現れる世界の変化を経験する。そんな経験をもたらす作品に、生成され変化し続ける霧や泡のモノを用いていたものがある。例えば霧が立ちこめては、消え去り、再び立ちこめるという変化の中で、陽の光が霧のスクリーンの上にさまざまな形で現れ、さらに時折紫色のフラッシュライトが幽かに点滅することで、日本庭園のいつもの風景が一変する(中谷芙二子『雨月物語-懸崖の滝』2008年、三渓園)[図K:筆者撮影]。またボーリング場の跡地という、天井が一定の高さのまま横に広く拡がる空間の中で、ジェネレーターにより生み出され続ける白い泡が、さまざまな形に隆起しながら辺りを覆っていく(名和晃平『Foam』、2013年、東陽倉庫テナントビル)[図L:筆者撮影]。いずれも陽の光や照明の効果とも相まって、見る位置や角度により、空間に現れる世界の印象が異なるために、観客は視覚を愉しませながら、空間を移動するようにうながされる。4.ふと「視点が変わる」ような、視点の移行・変化を体感するために、講義や演習の場で取り組んでいる課題として、他にも周囲の音・響きをことばや図、表やイラストによって記述することや(音響の記述)、線が互いにおりなす模様から文字が生成する過程を疑似体験するもの等がある(文字の生成)。これらのいつもとは異なる仕方で聴く、読み書くという課題については、また別の機会に取り上げたい。5.本研究は講義・演習の際に、口頭報告やレポートの提出を通じて、共に研究を進めてくれる受講者によって支えられている。下記に講義・演習の科目14