ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

図3『工藝ニュース』20巻4号より逆に、藏田が評価したのは工芸指導所の「デザイン」であった。【図3】工芸指導所からの参考出品作には、それらが「最も実質的でスマートな、真に洗練された合理主義的な時代の感覚」、「軽快な近代性」を表現しており、「蛍光灯で照明された清潔で整頓した近代的な事務室、そしてこの机の上に置かれるモダーンな文房具、さらにそこに働く人の服装」までも想像させると賛辞を贈っている。受賞作と工芸指導所の出品作を比較すると、例えば机の袖部分、引き出しに関しては、受賞作には引き出しの取り付け方や把手に工夫が凝らされているものが見られる。一方工芸指導所のものは、各机の引き出しのそれぞれの高さや把手の形状が統一されており、袖は吊袖式で各部は直線で構成され、「一つのユニット」として考えられていた。藏田は、この「全体がある数に分解されたユニット」、「合理的な組み立て構造」から、工芸指導所の家具には「近代性」を感じさせる印象があるとしている。つまり、規格に基づく自由な「各自の意匠」が可能で意匠は規格の範疇外であるという基本的な考えが先に示されながらも、ある一定の「デザイン」が求められていたということである。そしてその「デザイン」は「工作の容易さ」と「最小限の材料」を考慮した「量産性をもたせたデザイン」と言い表された。「JIS Z 5301」に関しては、規格は量産、すなわち効率的な生産を目的としている。規格の目的からすれば、規格に則るということは、その則った製品が量産されるということである。しかしながら、藏田が言うように、規格を遵守するだけではなく規格を含み込みながら「量産性をもたせたデザイン」をしなければ、実際の効率的な生産は可能とならない。つまり、「JIS Z 5301」が本来の目的を達成するには、規格自体を普及させると同時に「量産性をもたせたデザイン」も普及させる必要がある。さらに言うならば、藏田が新たな事務室の風景を思い描いたように、「量産性をもたせたデザイン」が普及して使われている状況も普及させることが志向されていた。この「量産性をもたせたデザイン」の普及は、先の懇談会で言われていた規格における家具の使用面からの指導的意味、そして新しい「生活の様式」の形成に通じるだろう。「JIS Z 5301」が公布される前年の『工藝ニュース』に「インダストリアル・デザイン」という記事がある14。そこでは、今日「生活」の内容に対する解釈が、「家庭生活用品に止まらず事務用品、機械器具から交通機関等に至るまでのデザインを対象とし得るすべてのものに適用される」と述べられ、さらにはデザインの対象となる製品は「現代生活のあり方から生れた必然的な要求を科学や技術によって多量生産すること」が基盤にあると述べられている。そして、その「多量生産」には「規格の利用」が条件とされている。つまり、「インダストリアル・デザイン」は「生活」の形成までを含み込んだ行為であり、規格は生活からの要求をフィードバックし、あらたに生活を形成するための条件となる。「インダストリアル・デザイン」は、戦後の新しい「生活」を形21