ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

「展覧会の本質と教育のデザイン」辻原賢一|ビジュアルデザイン担当Kenichi Tsujihara「展覧会」の“今”を考える昨年、瀬戸内国際芸術祭がトリエンナーレ形式で、第2回が開催された。第1回から比べて開催された島は増えたが、基本構造は変化していない。だが、第1回から変化した点は「プレゼンテーション」の場が増えたという点だろう。それは例えば、直島で開催された“羊屋白玉(指輪ホテル)”(作者名)による「あんなに愛しあったのに/ MassiveWater」(作品名)だ。この作品は、瀬戸内海の神話に基づき、風土や方言、食物なども取り込んだ作品で、瀬戸内(周防大島)出身の民俗学者・宮本常一のリサーチや、島に暮らす人々のへのインタビューも積極的に行って、日暮れ時の浜辺で上演するという作品だ。(写真1)つまり、この島が本来どういう島であったのかをリサーチし、要点をつかみ、今の人へ具現化したものを見せて時空を超えて繋がっていく内容である。なぜ、この作品を紹介したのかと言えば、近年、このような芸術祭による町おこしが日本全国に広がりすぎて、特徴が掴みづらく差別化がしにくなっている。どこに行っても同じアーティストと同じような作品では、開催地が違うだけの行き詰まり感も感じる。では何が差別化としてふさわしいのかは、やはりその土地にしかないストーリーをビジュアル化する方向。食に例えると分かりやすいのだが、“地産地消”、“身土不二”のような“地域自給”的な考え方を目指すべきと思う。作家がその土地で産まれ育ち、よく理解し、何を伝え残していくのか。もちろん作者がそこに産まれるのは奇跡のような確率でしかないわけだが、人にはそこに産まれた訳が、何かしらあり、何をおこなっていくかを知っているような気がしてならない。それは極端にしても、そういう方向をベンチマークにして意識することが、現時点では重要であろう。インターネットの普及により、一つの価値観が全世界、均一に向かう傾向にある。昨年、亡くなられた広告批評家の天野祐吉氏の朝日新聞“CM天気図”にも掲載されたコラムの中に、「このままいくと、巨大な企業と政治の圧力で、地球はどんどん文化のデコボコを失い、のっぺらぼうの星になってしまう。たとえば、地球人の人たちが、みんなユニクロを着て、みんなマクドナルドのビックマックを食べながら、みんなトヨタのクルマに乗って走っている絵を、頭の中に描いてみるだけで気持ちが悪い。」という記事があった。世の中がますます便利になり、みんなが好みの価値観を共有しようとすればするほど、“同じ”になり、“個性”や“独自性”は無意識の中で「フワッ」と失われていくのだ。それを踏まえながら今あえて意識しなくてはいけないのが、個性や独自性であり、そのためのリサーチであり、客観的な見せ方と演出である。そしてそれは、島々の芸術だけに限らず、普段あたりまえに認識していたモノやコトを再度疑い、見つめ直す作業が必要になってくる。そのことを念頭におき、今年度の川俣ゼミの展覧会では“七夕”というテーマが選ばれた。24