ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

き出すこと・描き出すことができることは、参加者によって、じつにさまざまだということである。ここで観客としての類型を示すなら、第一にストーリー展開を中心に覚えている人と個々のシーンを特に覚えている人がいる。例えば全体の展開をほぼ文字で書き出すことができるというタイプの人がいる。同時にこの人はジブリの一つの特徴であるはずのキャラクターにあまり関心を惹かれず、実際あまりよく描き出すことができない。他方で特定のシーンをまるでトリミングして拡大するように微細に描き出すことができる人がいるが、この人は全体のストーリーの展開を思い出そうとしても容易には思い出すことができない。また第二に登場人物や彼ら・彼女らを取り巻く環境との関わり方として、まず人物に同調・移入しながら観る人とあまりそうでない人がいる。例えば登場人物の感情の揺れ動きに自分の感情を同調・移入しながら観る人は、特定の人物が不安で泣き出してしまったシーンなどを中心に作品を思い出せる。ただし登場人物の主観に没入する分だけ、風に関する描写など環境の様相に関するビジュアルをよく覚えている人のようには、作品世界の風景を、あまり細かく思い出すことができない。また自分の感情を同調・移入しすぎることなく、登場人物の性格とはおよそ相容れなさそうな言動は無意識に見逃しながら、キャラクターとしてまさにその人らしく思われる言動や行動を中心に観ている人もいた。また第三に「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「千と千尋の神隠し」「崖の上のポニョ」という複数の作品を検証するプロセスの中で、共通して関心を寄せていた作品世界の設定やシーンがあったことに気づいた参加者がいた。ある人は「夢だけど夢じゃなかった」というセリフに端的に示される、夢か現実かという単純な割り切りができない、ファンタジー世界としての特質に強く惹かれていた。また作品には新鮮そうな野菜をはじめとしてさまざまな食べ物が登場し、またそれらが入院中の母親へ届けようとして娘が迷子になるなど、ストーリーの展開へ深く関わるために、食事のシーンを共通してよく覚えている人もいた。9.第一のプロジェクトの核となる課題「映画の観察」が、「メディアの利用法」にみられる創造性、工夫や知恵を誰にも共有可能なかたちにするものだとすれば、第三のプロジェクトでの課題「記憶レポート&スケッチ」は、メディアの「受容経験」にみられる創造性をふり返り、自分自身の観客として観方の特徴や傾向を、誰もが解明・自覚できるようにする。最後に第三のプロジェクトを進めていくにあたり、まだ始めたばかりのわずかな作業経験の中でも、今後特に留意しておきたいことを、断片のまま覚え書きとして記しておきたい。第一として、作品を受容するときに何をよく覚えているかを検証し、自らの観客としての特徴をとらえようとするときに、ストーリーの展開/個別的なシーン、登場人物/風景などの環境、共通する世界設定やシーンという、三つの参照軸が最初の手がかりになる。現在本稿を執筆している二年目以降は、何もなかった一年目と異なり、少なくともこの三つの軸を手がかりにして、自分自身の観方の特徴や傾向を探ることができる。未だ取り組み始めたばかりの、仮設的で図式的な手がかりであるために、さらに多くの参加者と検証を進める必要がある。第二に作業を通じて、作品を観た頃の記憶も一緒に喚起されるという指摘が、複数の参加者からなされていた。これは観客にとって映画の中の作品世界とその外側に広がる日常世界がどのように関わるのかを知るのに役立つ。例えば参加者は「となりのトトロ」を観ることで、日常的にも樹の上にはトトロがいるように感じ、メイと同じようにドングリを拾い集めていた。そこでは作品世界を介して環境や行動を意味づける様子が見て取れる。またサツキやメイが蚊帳を吊ってもらう場面では、自分自身も父親と遊んでもらったときのことを想起するという。ここでは逆に日常世界の経験のほうが観客の観方へ影響を与える可能性が見て取れる。特に何度もくり返し観る観客における影響は少なくないように推測される。第三に思い出す作業の中で、書き出しにくく、描8