ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

内からの衝動で純粋に表現した作品を、本人自らが発表の場や機会を求めたり、それを実現した段階で、作品は社会の中で評価されるかどうかは別にして、社会の中に意志的に存在させたことでアウトサイダーアートでなくなるのではないだろうか。また、本人の意思に関わらず、第三者が公開したことにより「アウトサイダーアート」という名のついたインサイダーアートに変化してしまう。結果「アウトサイダーアート」は「エイブル・アート」、「ワンダー・アート」、「ボーダレス・アート」など様々な名称のもとで、企業や公的機関等が作家と作品を支援する動きが活発化している。しかし、これにプリミティブアート(原始的造形芸術、未開民族の造形・絵画等)やフォークアート(土地固有の文化が生んだアート、農・商・工業等の労働者によって制作されたもの)なども混在し、今後の整理が必要だろう。そしてどのタイトルも現社会側の評価を付けていく方法としての名称になってきている気がする。平面作品で、アウトサイダーアートの代表的作家として評価された中でヘンリー・ダーカーが著名であるが、彼は300点以上に及ぶ膨大な挿絵を含む15冊1万5145ページからなる絵画を残し、死後発見されて世界に衝撃を与えた。彼自身は病院の掃除人として働きながらおよそ50年間制作に励み、その間いっさい発表することもなかった。立体作品ではフランスの郵便配達人であったフェルディナン・シュバルが33年の歳月をかけて自力で巨大な城塞を建設した。その異様で執着の積み重ねのような造形物には圧倒される。これらの作家はそれぞれ別の生業を持ち、それぞれ作りたいから作っただけである。その段階では、まさにアウトサイダーアートの範疇にあった筈であるが、その作品の魅力もさることながら、やはり、通常の芸術家に見られない彼らの表現過程に見られる行為や姿勢に魅せられ社会に引っ張り出されたことでアウトサイダーではなくなった感がある。「気分・精神障害」から創造への開花フロイトやユングの生涯を詳しく研究していた精神医学者エレンベルガーは、創造的な思想や真理を発見する人々が長年の神経症状態を経験していた事実を認め、それを「創造の病」と名付けた。特に鬱病は「クリエイティブイルネス(創造の病)」だという。このことは河合隼雄氏も提唱していることである。鬱病はどんな人間にも突発的に発病するものであるが、責任感があり,真面目で能力の高い人間がかかりやすいともいう。鬱病は、決して停滞した状態ではなく、次の創造制作へのエネルギー充電状態ではないかと推測する専門家もいる。それは精神疾患の状況時がアイデア創出の潜在期間と考えれば既にアウトサイダーの範疇に収まらない芸術家草間弥生が感じて来た幻聴や幻覚等も制作への準備期間といえないだろうか。子供の造形や街角の落書きなどに目を向けていたピカソやクレーをはじめとする旧態依然の美術界を嫌悪しつつも、あえてその中で生きていた芸術家たちの真の芸術を求める強い風潮があり、その中でアウトサイダーアートは社会的視点も加味されながら芸術の反権威主義の象徴として、さらに芸術の根源的意味を捉え直す契機として誕生したとも言える。そして逆にこの枠外の制作者たちは社会の偏見に曝されることになる。「精神」というドキュメント映画の監督・想田和弘(彼自身も燃え尽き症候群だった)氏は「人間は精神障害であれ普通の人であれいわゆる全人的に<健>状態の人はこの世に1人もいない」と言う。「健常」と「障害」の間に横たわるグラデーションの中に全ての人はいるということである。また芸術活動そのものが「障害は個性」という考えを強化する傾向にあるがこの心理的側面は障害者の生活上の困難とは別問題であり、結果その障害が創作エネルギーのモチベーションになろうと関係ないのであ21