ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

良い。しかし障害を持ちたくて持った訳でもない。そういう中で何かクリエイティブなものに運良く入り込めた障害者は幸運だが、障害を持ちながら、かたや自分の想像以上の能力を秘めたまま人生を終える人々も多い。10年前、障害者芸術支援協会がまだ任意団体だった頃、盲目の写真家の展覧会を企画・開催した。今考えれば、この「盲目の写真家」という人目を引くキーワードを売り物にして展示を開催したところは否めない。しかし、開催後観覧者からは「風を感じた」「波の音が聴こえた」など写真から発する視覚以外の感覚を呼び覚まされる事実が残った。盲目の写真家は目以外の四感と彼の中に隠されていた第六感で作品を撮り続けていたのではないだろうか。一番ほっとしたことは写真家自身が観覧者の声を聴いたことで大いに喜んでくれたことである。傑出した才能を持っている人は何かを犠牲にしてその高みに辿り着いている。彼は「盲目」というハンディキャップにより残った自身の能力を集めて創作に挑んでいたに違いない。彼の場合は視覚障害という姿に見える形のものである。そしてその後目は見えないけれど写真を撮りたくて撮っていた1人の障害者を社会(世間と言ったほうがいいかもしれない)に引っ張り出した意味や疑問を自らに投げかけることになった。最近ではアウトサイダーアートと他の展覧会芸術の境界がますます消失しているとも言われている。しかし歴然と「アウトサイダーアート」というキーワードで社会に披露する姿勢は変っていない気がする。10年前の写真展は知らずと同じことをしていたのではないだろうか。それは健常な鑑賞者が傍観者として無自覚に障害者を他者化するきっかけになったかもしれない。障害者の芸術作品は、自分はここにいるという作者の叫びである。授産した作品ではなく、精神的必然性を伴う能動的な行為である。作者は作らざるを得ないという情動により創造しその情動の強さが作品の強さや魅力になっていく。特に気分・精神障害者は表現者としてその弾みが大きい。病跡学は活躍した人物の研究から端を発した学問である。歴史上の人物の生活史を通してその人が生きた歴史の中で、彼らが生み出した作品に影響を及ぼした個人の精神的背景を研究して、その作品や彼らが生きた時代の環境を理解することが出来る人間学である。ランゲ・アイヒバムの著名人78人の研究によると、それら偉人と呼ばれる人々の80%以上に精神疾患・人格異常があったという。そこで、現在障害に苦しんでいる人々の現時点までの生活史や社会環境を踏まえて、彼らの能力を見つけることが出来るのではないだろうか。この考えをもとに、多く沈んでしまいがちな気分・精神障害者の創造を含めた能力を掘り起こしたり、総合的な治療への誘(いざな)いや、サポートの出来る協会を考えて来た。特に法人化することにより、もともと基本となる活動資金がない我々が活動していく為の公私含めた助成を受けやすくする狙いがあった。また最初にも述べたように、見えやすい身体障害や知的障害に比べて見えにくい気分・精神障害を受け止める公的機関が殆どないことも手伝ったといえる。現在大学等高等教育機関でも鬱等の気分・精神障害の学生が増えていると言われているが、それ程昔と割合が増えているとは個人的に思えない。多く感じるのは、気分・精神障害等の病名の分類が明解になり、また処方薬や治療の進歩もあり以前よりは疾患者が前面に出て来ている感じがある。それは好ましいことだと考えている。これらの学生への有効な指導はやはりセカンドオピニオンを恐れず自分に合う主治医を見つけて充分な治療・処方を奨めていくことが大切かと思われる。その部分のサポートも継続しながら、それぞれの障害者に見つけられる才能や可能性を引き出すことの出来るNPOにしていきたい。23