ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

人を魅了するビジュアルデザインの考察辻原賢一|ビジュアルデザイン担当Kenichi Tsujihara「学び」の方法に誤解があるのか?現在のビジュアルデザインの教育の中で学生と、制作チェックのやりとりをしていると、以前とあきらかに違いがあると感じる。一枚のビジュアルデザインを制作する場合、<1>与えられたモチーフに、人がどういうイメージを持っているか、これまでモチーフにどんなビジュアルがついてきたかの「リサーチ」、<2>それを受けて、その上でどんなイメージが価値としてつけばいいか、リサーチによって訴えるメッセージを1つセレクトして、それをどんなアイデアで伝えていくかの「セレクトとアイデアの確立」、<3>それをどんな表現のビジュアルにしたら相手を魅了するのか、試作の繰り返し。「トライ&エラーによる表現の積み重ね」。この<1><2><3>を均等に我慢強くやらねばならない。だが、今の学生の大半は<3>がつくる行為だと認識している場合が多い。<1>と<2>も均等に重要なのにも関わらずだ。<1>と<2>は、お手本になるクリエイターの作品を真似るという行為も含まれる。学生たちとの対話の中で「真似る」ことに抵抗を感じる人がとても多い。それはモラルの意味合いで間違いではない。また、そのままその行為がクセになってしまうと「オリジナリティ」のラインが分からなくなってしまう危険な側面も確かにある。だが、ここをキチンと理解して取り組まないとその先の成長が困難になることも事実だ。つまり現状は、誤解があるのだ。よく両親がクリエイターの子供なので、その子の作品は優れているといった場合がある。それは幼い頃から環境的に<1>をしてきている。<2>も、「自分だったらこうつくってみる」という想像の時間が贅沢にあったことも伺える。だとしたら、そういった環境でなかった人にも、今後の考え方と時間の使い方次第で、追いつくことが可能である。なぜなら、筆者がこれまで受け持った学生で優れた作品をつくる人の共通点は、「知識量が多い」ことだからだ。逆に言えば、作品がいまひとつな人はリサーチが足りていないし、さらに未熟な人は、リサーチもしないし、「元の情報量もほとんど無い」。これを本当に痛感する。<3>のみ勉強してもデザインの成長に根本的につながらない。つまり成長には、様々な方向性の情報を豊富に与える必要がある。自宅と学校の往復だけでは新しい発想はなかなか出ないからだ。しかも情報は具体的なもので、分かりやすく与えなければならない。同じワードでも受けとめる印象が世代によってかなりの違いがある。つまり与える情報のニュアンスを教育者は検証する必要がある。世代による価値観の違いを埋めると言ってもいいだろう。幼少期の演劇の舞台で「全員がシンデレラ」という価値観になってしまっている現在である。さらに自ら進んで疑問点を「人に訊く」という行為をしなくていい時代でもある。リサーチの方法が誰もが同じで<3>をやると<1><2>をとばしていることになるので、自身の経験の中だけで直感的に<3>をしてしまう。32