ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

図A.『ミックマック』図B.『ダンサー・イン・ザ・ダーク』報告された、音響に関わるメディア・モノが創造的に利用されている事例をとりあげる。ここでは身体と環境のあいだ、他の身体とのあいだ、自らの身体における複数の「私」のあいだという三つに分けて、音響に関わるメディア利用の観察成果を紹介しよう[注3]。第一に身体と環境のあいだで音がメディアとして機能する事例として、複数の受講者によって取りあげられた「ミックマック」という作品がある。そこでは登場人物がさまざまな廃品を巧みに利用することで、いま移動させられているという体感に加えて音を介して環境イメージを生み出し、目隠しを施された登場人物に、実際とは異なる環境にいるという誤認をさせるというシーンが登場する。主人公の中年男性は地雷による父の死や自身の頭部への被弾を体験したために、二人の大手武器製造会社の社長、いわゆる死の商人への復讐を図る。仲間たちの支援もあり、身近なところから手に入るものだけで、愉快に復讐を成し遂げるのだが、クライマックスのシーンで彼らは中東の砂漠地帯特有のサウンドスケープを巧みに偽造する。まず武器商人たちは麻袋の目隠しにより視覚からの情報を遮断され、さらにどこかへ移動させられているかのような体感を与えられる。その上で耳元で焚かれたガスバーナーの音は飛行機のエンジン音として聴取され、どこか遠くの地域へ連行されているのだと錯覚する[図A]。さらにどこかで下ろされた後で、今度は周囲からの独特の祈りの声や牧畜でヤギなどの首にぶら下がるベルの音が響き渡ることで、今いるのは中東の紛争地帯だと誤認させられてしまう。目隠しを外されたとき、彼らは周囲に砂を盛っただけの大地を砂漠だと信じ、この土地へ武器を売り、多くの人の命を奪ってきたという事実と向き合わされ、自らの悪事を白状するに至る。周囲に響く音が周囲の環境について何らかのイメージを喚起させる。上記の「ミックマック」では周囲の仕掛けにより、いまここの環境がどこか別の環境として誤認される。それに対していまここの環境があまりに過酷で耐え難い場合、自身が自覚するよりも先に誤認に誘われるのを余儀なくされてしまう場合がある。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」では家系を原因とする失明の危機に直面し、独り移民として渡ってきた女性が登場し、子供の将来を案じて手術の費用を密かに貯え続ける。自身も視力の低下に悩まされつつ、働くことができる残り時間を考慮し、昼間だけでなく深夜も工場で働こうとする。あまりに過酷な暮らしの中で、彼女は工場の機械音や鉄道の走行音など、規則正しく響くリズムにうながされ、憧れのミュージカル映画の世界にいるかのような空想へと誘われる[図B]。イメージの中で一時だけ解放され、高らかに歌い踊り、その結果機械の操作に失敗し、解雇の危険に直面してしまう。このように「ミックマック」と「ダンサー・イン・ザ・ダーク」では、音は環境のイメージを強く喚起させるメディアとして利用されている。さまざまな物音3