ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

ページ
6/78

このページは 桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014 の電子ブックに掲載されている6ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

図C.『キンキーブーツ』図D.『裏切りのサーカス』やリズムが身体を感応させ、想像を誘発し、いまここに居ながらにして異なる環境イメージへ没入させるという、イメージ喚起力の強さが注目されている。3.第二に音がメディアとして他の身体とのあいだで作用する場合がある。例えば音を生み出した主体や当事者の意図とは関係なく、響きを媒介に、結果として何かが伝わってしまうという利用法が観察される。「キンキー・ブーツ」では父の突然の死により社長を継がざるをえなくなった息子とその婚約者が、工場の二階にある社長室で口論している様子が、一階の仕事場に残っていた従業員へ伝わるという場面が登場する。新たに社長となった彼は、父の代ですでに経営危機に陥っていた工場の存続をかけて、ドラァグクイーン(drag queen)を対象とした靴づくりへの転換を決意する。しかし長らく紳士靴の職人として働いてきた従業員は偏見を払拭できず、ミラノの見本市へ出品する前の晩を迎えても、新製品の完成へこぎ着けることができない。このとき息子の婚約者が社長室へ詰めかけ、自宅を抵当に入れてまで見本市への出品をすることに反対し、激しい口論となる。ここで偶然部屋を訪れた自らもドラァグクイーンであるデザイナーが、窓ガラス越しに一階に残っていた従業員の姿を目に留める。そしてわざと靴を置いたふりをして、ふだんは従業員呼び出しに使うマイクのスイッチをそれとなく押す[図C]。漏れ聞こえた口論の声を介して、若き社長がいかに従業員のことを思い、今回の挑戦に賭けているかを痛感した従業員は、全員一致協力して徹夜で靴を製作、見本市へなんとか間に合わせるという展開が生まれる。「裏切りのサーカス」では脇を通り過ぎた人の鼻歌によって、電話でのやりとりが外部から盗聴されていたことに気づかされるという場面がある。イギリスの諜報部のなかに二重スパイが潜んでいるという指摘を受けて、元諜報部員の初老の男性を中心に、密かに捜査が進められる。このとき密命を受けた若き部員が、危険を冒して書類を外部へ持ち出そうとするが、所持品を預けてからでないと、閲覧室に入れないという決まりに妨げられてしまう。そこで事前に協力者から電話がかかってくるように謀り、いったん書庫に入った後で呼び出しを受けて閲覧室に戻り、自動車修理の用件でやりとりをしているふりをする。通話の途中で、いま必要なメモが入っているからとお願いをして、係の人に預けていたカバンを持ってこさせ、そこへ機密書類を紛れ込ませることに成功する。しかし彼は退出した外の階段で、すれ違った幹部の一人が印象的なメロディーを口ずさんでいるのを耳にする[図D]。それは先ほど電話をした際に協力者がいた修理工場内に流れていた楽曲であり、幹部らが自分たちのやり取りを盗聴していたのだと気づき、戦慄を覚える。このように「キンキー・ブーツ」と「裏切りのサーカス」では、声や鼻歌が、それを生み出した者が意4