ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

ページ
7/78

このページは 桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014 の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2014

図E.『鍵泥棒のメソッド』図F.『英国王のスピーチ』図しているか否かにかかわらず、結果として何らかの情報を媒介してしまうメディアとして利用されている。そこでは他の身体によって耳にされることで、結果として音を生み出した身体をとりまく状況が伝わるという、響きの拡散や漏洩の可能性が注目されている。4.第三として、いまここにある身体において、「私」にとって見覚えのない「私」や「私」が制御しきれない「私」とのあいだで、音がメディアとして機能する場合がある。いいかえると「私」という主体が複数に分かれつつ関係づけられるときに音響が媒介を果たすときがある。「鍵泥棒のメソッド」では記憶喪失に陥った男が、かつて聴いていた音楽を耳にして、自分の正体が「殺し屋」であることを思い出す。彼はいつもの仕事後に寄った風呂屋で転倒して気を失い、偶然居合わせた売れない俳優が、出来心からその隙にロッカーの鍵を交換し、彼の服と持ち物を勝手に借用し出て行ってしまう。覚醒した後「殺し屋」は記憶を失っていることに気づき、手元に残されていた鍵のロッカーに入っていた所持品の持ち主である、売れない俳優としての人生を生き始める。仕事が丁寧な「殺し屋」はノートで自分の置かれた状況を整理し、エキストラやバイトで地道に暮らしを立て直し始めるが、そんなときに自分と同じように几帳面な性格の女性と親密になる。結婚を心待ちにしていた女性の父親が突然亡くなり、葬式後に生前父が好んだという音楽を偶然聴かされたときに、それを聴いてから仕事をしていた「殺し屋」としての記憶が甦る(ベートーヴェン・弦楽四重奏曲第14番)[図E]。すぐに自分になりすましていた俳優を呼び出し、雑な仕事のために闇社会から狙われた命を救ってあげる代わりに、そのまま「殺し屋」としてふるまい、殺されたふりをすることを命ずる。そして自分自身は俳優になりすましたまま、彼女と共にいる人生を選択しようとする。「英国王のスピーチ」では、いつも吃音に悩まされていた、当時の国王の次男が、レコードプレーヤーからの流れる音によって、流暢な朗読に成功する場面が登場する。王子の吃音は長らく治療を試みてきたが容易には直らず、万策尽きた妻はついに王室とはおよそ無縁な、オーストラリア出身の言語聴覚士を探し出す。彼は心因(トラウマ)が大きく関わる症状を治療するために、対等の関係を構築しようとするが、プライドの高い王子は、それを受け入れようとしない。言語聴覚士は当時最新のシルバートーンの録音機を用意し、ヘッドフォンでレコードから再生される音楽を大音量で聴きながら、シェークスピアを朗読するように促す[図F]。あまりに奇怪な治療に付き合わされた王子は、怒って治療室を出て行ってしまう。しかし、後日レコードに吹き込まれた自身の声を聴き直すと、吃音の症状がまったく現れていな5