ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

メディアの創造的利用に向けて―知覚拡張の経験を拡張するために―御手洗陽|デザイン学担当Akira Mitarai1.はじめに毎年、この研修会のレポートを執筆するのは、ちょうど年度末を迎える時期になる。最近一年間をふり返り、新しい経験として広く共有を図りたくなるのは、まずは講義や演習で受講者と共に取り組んだ課題のことになる。いつもとは異なる仕方でメディアを利用するために、「映画の観察」や「音響の記述」などの課題に共に取り組むときに、かつて観た映画なのにそんなものやことが映っているとは気づかなかった、いつも通り過ぎていた環境にそんな響きがあったとは知らなかったと、新たな経験を得られるのは学生だけではない。同じ空間に身を置く講師にとっても等しく新たな経験を得られる機会だからこそ、関連する作業を思いつく限り効果的に連動させようとする。そして知覚を拡張する経験そのものの拡張を目指し、新たな経験を広く共有できる場を生み出そうとする[注1]。本稿では「創造的なメディア利用の探究」というテーマへ向けて取り組んだ、さまざまな作業間のつながりについて考えてみたい。例えば講師として課題を設計するときに、美術館や野外での展示など、新たな見学調査で得られた経験が役に立つことがある。また見学調査者としての経験が、過去の論文執筆時の思考を想起させ、改めて明晰にしてくれることがあり、かつてレポートで記したことが、テレビ視聴での映画や広告などの日常的なメディア利用時に、新たな観察の機会を与えてくれることもある。さらに今回こうして執筆することは、これらの作業のあいだの関係を明確にするので、今後の講義や演習の内容に少なからず影響を与えることだろう[注2]。2.意図せざる音漏れの効果:映画作品「キンキーブーツ」とテレビ広告「クリアアサヒ糖質0『満足男!夏の満足実況』篇」のあいだ。まずは、かつてレポートでとりあげた映画作品でみられたメディア利用のアイデアが、ジャンルを越えてテレビ広告でも活用されていた事例を発見したので、そのことから話を始めよう。昨年度のレポートにおいて、映画作品でみられる創造的なメディア利用の取り組みとして「キンキーブーツ」における音というメディアの利用法をとりあげた[注3]。そこでは登場人物が生み出した意図せざる音の漏洩が、結果として周囲への情報の伝達を実現するというシーンが登場する。亡くなった父に代わり、新たに社長の座を引き継いだ息子が、会社存続の危機を乗り越えるために、自宅を抵当に入れてまで、再建を図ろうとする。そのことを知った婚約者が社長室へ押しかけ、彼にやめるように抗議をおこなう。するとそこに居合わせたデザイナーが機転を利かせて、口論している二人には気づかれないように、ふだんは従業員の呼び出しに使う館内放送のスイッチを密かに押す。そのことでたまたま残っていた従業員が、スピーカーから漏れ聞こえた二人の言い争いから若社長の決意を知り、新型のブーツを仲間た16