ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

ページ
31/68

このページは 桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015 の電子ブックに掲載されている31ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

Quality」というようなデザインの理念を考えることに重心がスライドしていった。座談会で勝見や剣持勇は、グッド・デザインが問題にされるときいまだにデザインが「appearance」(製品の外観)のことととらえられる現状があることを問題視しており、グッド・デザインには「質」も含まれるべきであると主張した。しかしながら特に剣持は、アメリカでのグッド・デザイン展を実地にみた経験から、アメリカのグッド・デザイン運動には「GoodTaste」と「Good Quality」の二局面があり、グッド・デザイン展があつかっているのは前者であるとしている。つまり、「Good Quality」は性能や品質を指しており、それは商品テストのような客観的な方法ではかられるべきとみなされているということであった。品質か外観かという区別は、今でこそいささか古めかしく思えるが、当時はまだ「色では日本製品が色褪せるというのは向こうでも評判です。木製品は曲がる、金属は錆びる、漆器ははげるということでしょう。これさえなければ日本製はよいのですが。」と座談会でも言われたように、特に新しい素材については一定のレベルの質を確保する技術水準となっていなかったという現状があった。「appearance」のために品質を下げるということも現にあったそうで、品質と外観がそれほど無関係ではなかったということである。勝見は、デザインは「appearance」のことだけではないと強調し、「Good Design」「Good Quality」に対して、「コンシューマー」が「Good Taste」をもつようにすること、つまりtasteとqualityは対峙するものではなく、tasteはqualityをふくんだdesignをみる肥えた眼であるとした。さらに、そういった眼をもった人たちにグッド・デザインを支持させるようにする教育の問題に言及し、最終的に座談会は、「Good Quality」の問題をデザインの理念に含まれる問題として一般に認識させるということ、そしてそのためにはデザインの啓蒙運動、さらには教育の必要があるということでしめくくられた。特に勝見は、デザインの専門教育ではなく、たとえば小学生への「一般教育」の必要性を説いた。つまり「Good Taste」をもつべき未来の「コンシューマー」への教育である。民藝は「生活」という観点から今の生活にそぐわないということで批判されたが、同じく「生活」という観点からデザインの理念に通じるものとして見直されてもいた。民藝は「Good Quality」を含み込んだグッド・デザインの生活用具であったはずであり、その収集をおこない理論化してきたのが民藝運動だったという自負は、座談会に参加した民藝協会理事長の村岡景夫の発言にもあらわれている。民藝の協団は、柳宗悦と柳による民藝理論を頂点としたピラミッド型の構造で成立しており、日本民藝館の開設を実現し、全国各地で生産と消費のサークルを実際に形成していた。ある意味民藝は、啓蒙運動や教育といった面での成功例であり、勝見も柳を「リアリスト」と評していた15。しかしながら、民藝における「Good Quality」あるいはグッド・デザインの保持は、やはり過去の生産体制が可能にしていたのであって、手工芸を離れ、「現代の生産機構」、つまり機械生産で可能なのかどうかという問題があり、民藝協会内部にいた村岡自身もその点を疑問視していた。ともあれ、民藝がグッド・デザインの文脈でとりあげられたのは、当時のデザインへの反省的な視点からであり、「デザイン・ブーム」を経たデザインの内実への問い直しからであった。その視点は、たとえば、日本文化に根ざした日本固有の近代デザインを、という剣持勇の「ジャパニーズ・モダン」の提唱にも通じるものであった。2-3.運動としての「様式」―誰の「生活」なのか勝見は、しばしばジョージ・ネルソン(GeorgeNelson)のことばを引用して、次のように言う。29