ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

おわりにの提唱、あるいはウィリアム・モリスを起点とした勝見の近代デザイン史観から考える必要があるだろ民藝は1950年代時点での様式をもっていない、つまりは生活を忘れているということで勝見らによって批判された。しかし、ここで疑問が生じる。勝見が自身で生活を「『国民個々』の生活」21というように、戦後日本でのグッド・デザイン運動は、う。勝見のデザイン論に少しでも輪郭を与えることは、日本の戦後のデザイン史をより理解することでもある。桑沢デザイン研究所での「近代デザイン史」の授業内容の充実をはかるためにも、今後も勝見の言説研究を継続していきたい。近代デザインが対象としてきた民衆(マス)を解体して「個」の生活を問題化し、マスの生活を想定した近代デザインを揺り戻す作用をもっていた。1920年代の工芸概念に「生活」が結びついた際も、「個」への視線がともなっていたはずである。つまり、「生活」は、「個」の生のありかたを必然的に含み込んでいる。しかし、「『国民個々』の生活」は、国民のうちの誰の生活でもありえると同時に、特定の誰かの生活ではない、という意味で、その内実は限定されず、ともすれば空虚な理念であるという側面をもっている。「誰の」が限定されない生活の内実は限定されず、その生活の様式もまた、限定されない。果たして「誰の」がぬけおちた様式は、様式たり得るのか、という疑問が浮かび上がってくる。そのじつ、勝見のいう様式は、それを共有するある一定の、つまり、なんらかのしかたで限定されたtasteをもった民衆を想定してもいる。勝見にとっては、あらかじめ限定されたマスから出発してはならない。あらかじめ限定された「趣味」をあてがってはいけない。しかし様式が常に限定をともなう以上、勝見のめざすtasteをもった「『国民個々』の生活」の様式とは、「個々」からの「運動」の結果であり、同時にそれは常に暫定的な更新し得る結果であり、はてしない「運動」のさなかにある通過点にすぎない、と言うことができるであろう。勝見の言う「様式」、「生活」、「趣味」、「民衆」(マス)の関係は、今後さらに精査する必要がある。そのためには、おそらく、勝見がしばしば主張していた「総合」としてのデザインや、「比較デザイン学」1栄久庵憲司「勝見勝と戦後日本のデザイン運動」1944年(『勝見勝著作集第2巻デザイン運動』講談社、1986年、p.372)2勝見勝「工芸の生態」『手と造形』教育美術振興会、1944年(『勝見勝著作集第2巻デザイン運動』講談社、1986年、pp.17-20)3例えば、「民藝運動は何を寄與したか」『柳宗悦全集10巻』筑摩書房、1982年、p.184北澤憲昭『美術のポリティクス―「工芸」の成り立ちを焦点として』ゆまに書房、2013年、p.165森仁史『日本〈工芸〉の近代―美術とデザインの母胎として』吉川弘文館、2009年、p.1206例えば、安田禄造『本邦工芸の現在及将来』広文堂書店、1917年7勝見勝「柳宗悦の死と民芸」『芸術新潮』新潮社、1961年(『勝見勝著作集第2巻デザイン運動』pp.88-94)8「工業意匠についての諸問題」『工芸ニュース』1950年4月、技術資料刊行舎、p.229「特集:民芸」『芸術新潮』新潮社、1955年12月10水尾比呂志『評伝柳宗悦』筑摩書房、1992年、p.30711「民藝の立場」『柳宗悦全集10巻』pp.254-25612「柳宗理―人と作品」『デザイン』美術出版社、1960年2月(『勝見勝著作集4作家論』講談社、1986年、pp.137-141)13柳宗理の民藝批判については、拙稿「「アノニマス・デザイン」はつくり得るか―柳宗理の、発見されることへのプロジェクト」(『デザイン理論』61号、意匠学会、2013年1月、pp.35-48)を参照されたい。14「座談会:製品の品質とデザイン」『工芸ニュース』1954年1月、丸善株式会社、pp.2-715勝見勝「柳宗悦の死と民芸」『芸術新潮』新潮社、1961年(『勝見勝著作集第2巻デザイン運動』p.92)16勝見勝編『グッド・デザイン』新潮社、1958年17勝見勝「デザインの20年」『通産省公報』1977年10月(『勝見勝著作集第2巻デザイン運動』p.271)18栄久庵、前掲書、p.37219勝見勝「柳宗悦の死と民芸」『芸術新潮』新潮社、1961年(『勝見勝著作集第2巻デザイン運動』p.94)20勝見勝「デザインイヤーと生活愛」『読売新聞』1974年5月8日(『勝見勝著作集第2巻デザイン運動』p.280)21勝見勝『現代のデザイン』河出書房、1957年、p.4631