ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

21の方法(論)もしくは法則(性)があるとも言える。確かに、昨年刊行された「収納」関連の書籍のタイトルには、「テク」(テクニック)、「コツ」、「ルール」、「(ととのえ)方」、「術」といったことばが散見する。「ドリル」をこなし一定の方法、法則さえ習得すれば、誰もが「収納」できるようになるのだろうか。 「収納」というテーマへの関心は、ここ数年でにわかに高まってきたのではない。「収納」には、特に戦後間もなくから、さまざまな人や領域から関心が寄せられていた。通時的にみても共時的にみても継続して「収納」について語られているということは、一定の方法や法則に異なる文脈をまとわせることが熱心におこなわれているということなのだろうか。あるいは、普遍性をもった方法や法則などはなく、十人いれば十人の「収納」があるということを意味しているのだろうか。そうだとするならば、通時的にも共時的にも「収納」というテーマがとりあげられていること、そして、そのテーマをとりまく文脈が変化していることに着目し、「収納」に関する記述の共通性や変容を考察することに研究の可能性を見出すこともできるのではないだろうか。 「収納」というテーマは、デザイン、正確に言うと「デザイン」に関わる言説とも時に結びつけられてきた。「収納は生活をデザインする」とさえ言われる1。本研究は、まずは、「収納」について語られてきた記述を集積し、記述内容を整理、分析し、「収納」にまつわる言説の系譜を描き出す。さらには、「収納」を手がかりにデザイン史の射程を探り、デザイン史研究の新たな地平を開くための試論となることを目指す。「収納」についての記述はさまざまな領域にわたっているため、その資料の収集と整理、分析には、長期的な計画を要する。本レポートでは、試論の第一歩として、現段階で収集できている資料から把握できた「収納」にまつわる言説の系譜を提示する。1.「収納」はどのように語られているか1-1.「暮らし」から語られる「収納」1-1-1.「収納」することと「収納」を少なくすること まずは、現在、「収納」がどのように語られているのか、その一端をみておきたい。参考資料としたのは2000 年代以降の出版物であり、特に昨年(2016年)に刊行された書籍、雑誌をとりあげる。 先にあげた昨年刊行された「収納」に関する書籍のタイトル、本文をもう少し詳しくみてみると、「収納」とともに使われていることばにいくつかの傾向があることがわかる。たとえば、「美しく暮らす」、「美しい暮らしを作る」など、「美しい」ということばがみられる。また、「すっきり暮らすための」、「スッキリ心地よく暮らす」、「シンプルで心地よい暮らし方」など、「すっきり(スッキリ)」、「シンプル」あるいは「心地よい」といったことばがある。そしてこれらは、「収納」ではなく、「暮らし」という名詞や「暮らす」という動詞を修飾している。つまり、重点はいかに「暮らす」かにあるのであり、「いかに」は「美しく」であり、「すっきり」であり、「心地よく」である。 なぜ「収納」は、「美しく」、「すっきり」、「シンプルに」、「心地よく」暮らすこととともに語られるのか。「収納」がうまくいっていれば、収納がうまくいっていない状態に比べて、所有物の管理や手入れに煩わされることがなくなる。その結果、ものを探したり片づけに割かれる時間が短くなり、時間的