ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

22なゆとりをうむ。また、なにをどのくらい所有しているかを把握できるようになるため、すでに所有しているものを再度買ってしまうということもなくなり、経済的な無駄もなくなる。「収納」によってそのような結果がもたらされると、「自分や家族も幸せに」なるというのである2。そこには、片づけという作業や片づけられないということが「ストレス」であるという前提がある3。 「収納」は、時間ともの(住居にある所有物)の管理をしやすくさせるらしい。ただし、探す手間を省いたり、家事の作業動線をスムースにするためには、「コツ」が必要であり、うまく「収納」されていなければならない。うまく「収納」するためには、「収納の前に“ 物”“ 事” を整理する」4 と言われるように、その前の段階にも言及されることになる。「収納」はしばしば「整理」と一体となって語られる。「整理収納アドバイザー」資格取得のためのテキストによると、「収納」と「整理」は異なるプロセスであり、アドバイザーになるには「収納」と「整理」を同時に学ばなければいけない。うまく「収納」するためには、収納場所に収められるべきでないものが収められているのは望ましくなく、それが収められるべきだと判断されている必要がある。 近年、整理という名の能動的な判断が介入するプロセスが特化される傾向もあらわれている。たとえば、2009 年に刊行された『新・片づけ術 断捨離』(マガジンハウス)はその一例であろう。著者のやましたひでこによる「断捨離」関連の書籍は累計300万部をこえ5、「断捨離」ということばはもはや一般化したと言ってもよいであろう。ちなみに「断捨離」は、やましたひでこの登録商標となっているらしい。アメリカの雑誌“TIME” で「世界で最も影響力のある100 人」に選ばれた近藤麻理恵が、2011 年に「こんまり流ときめき整理収納法」をうたった『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)を刊行したことも記憶に新しい。また、『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス、2015 年)の著者佐々木典士や、『最小限主義。「大きい」から「小さい」へ モノを捨て、はじまる“ ミニマリズム”の暮らし』(KK ベストセラーズ、2015 年)の著者である沼畑直樹らは、自ら「ミニマリスト」と名乗り、「Minimal&ism」というWeb サイトを運営している。「ミニマリスト」は2015 年の流行語大賞にノミネートされた。 もちろん「断捨離」、「ときめく片づけ」、「ミニマリスト」といったことばの内容やそれぞれの区別は精査すべきだが、ひとまずここで言えることは、整理というプロセスを重視した傾向は、物理的なものを整理することをとおして、自らの生にとっての要、不要を判断し、なにが自分にとって必要なのか自己内省するという点ではそれらは共通しているということである。自らの生にとっての要、不要をふりわけるという作業の目的は、あくまで「人生」や「幸せ」という語を用いて言い表され、その方法は幸福論、人生論のような論調で語られる。物理的なものの量は、人生において抱えているもの、執着しているものの大小のバロメーターになると言わんばかりである。「ミニマリスト」の佐々木典士は、「増えすぎたモノを減らすことは、幸せについてもう一度、考えてみること。」6 と言う。 そのような論調はおのずと、「収納」されるものがあるという「収納」の前提をくつがえす。そもそも、「収納」されるものが少なければ、「収納」に頭を痛めるということもない。「断捨離」、「ときめく片づけ」、「ミニマリスト」でみられるような所有物を捨てる、手放すということが「収納」関連本に引き継がれ、「捨て方」の指南が「収納」の手法の内容となっている場合もある。その場合、最良の「収納」とは、「収納」しないですませることであるという一見逆説的な方法論が成立する。 「収納」することと「収納」するものを少なくすることという相反する方向は、一定のことばのもと