ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

23で止揚されていく。それが、「暮らし」や「暮らし方」、あるいは「ライフスタイル」ということばとともに語られる近年の「収納」関連本の傾向である。2015 年に刊行された、「マキ」の著書である『忙しくても、家が狭くても、子どもがいてもできる持たないていねいな暮らし』という書籍がある。かつては「収納スペースにありったけの物」がつめこまれ、「物に振り回されていた」生活を送っていたが、仕事、二人の子育て、家事をこなすために「シンプル」を極め、生活を「コンパクト」にした結果、現在の「ライフスタイル」にたどりついたという。ただし、それは、コンパクトにしていくことのみに執心するのではなく、「ひと手間」をかけるところはかける、「ていねいな暮らし」なのだそうだ。内容は、家族構成や住居の間取りと広さの紹介からはじまり、インテリア、食事、愛用品、子育て、メイク、ファッション、一日のタイムスケジュール、休日の過ごし方、住んでいる地域、片づけと掃除、そして収納と、多岐にわたる。文字どおり、「ありのままの暮らしぶり」7 が紹介されている。「収納」の部分では、家が狭く収納スペースが少ないという制約のなかで(4 人家族で53 平米1LDK)、パジャマを持たない、厚手のコートを持たない、下着を二セットしか持たないなど、「収納」するものをなるべく持たないことを前提とし、使うものを使う場所におく、洗濯物をたたまずにすむよう衣服をハンガー収納にするなど、家事を効率的におこなう工夫が紹介されている。 「マキ」のように「収納」を「暮らし」の一環として語り、その具体例を示すことは、(匿名の)個人の「暮らし」の開示に他ならない。現に、昨年刊行された「収納」関連本を見るだけでも、著者や取材先は、SNS で自らの「暮らし」を綴りフォロワーを集めるようになった「インスタグラマー」や「ブロガー」がおもである。「マキ」も「ていねいな暮らし」にたどりつく過程をウェブログに綴った結果、一日2 万PV、月間60 万PV がカウントされるようになり、ウェブログの書籍化にいたったそうだ。個々人から発信された「暮らし」から語られる「収納」は、個別的な事例にすぎず、そこに普遍的な「コツ」や「ルール」は存在しない。そうすると、昨年だけでも複数刊行された「収納」関連本は、あくまで個々人の「暮らし」を語ったものにすぎない。しかしながら、個別であるはずの事例は、「美しく」、「すっきり」、「シンプルに」、「心地よく」、「ていねいに」暮らすという一様な語り口にからめとられていく。「暮らし」から語られる「収納」は、井出幸亮が『「生活工芸」の時代』で指摘するような「「暮らし系」などと呼ばれるムーブメント」を端緒とした「ライフスタイルブーム」(正確には「ライフスタイル」ということばのブーム)8 に合流した、あるいはそこから派生したかたちであらわれてきたと言ってもよいだろう。ただ、それは、一定の語り口に加え、語り口とはまた異なるレヴェル、つまり一定の様相(イメージ、見かけ)に貫かれているという複雑さを抱えている。1-1-2.「収納」され続ける「収納」 「収納」は「舞台裏」であり、「収納で、見せたくないものをすべて隠すことによって初めて、住まいを美しく見せることができる」と『物が多くても、狭くてもできる いつまでも美しく暮らす収納のルール』の著者は言う。しかし、その「舞台裏」はおしげもなく披露されている。しかも「舞台裏」にあるのは、色とりどりの、さまざまなかたちや大きさのものではなく、大きさのそろった白いかごやファイルボックス、無印良品のかごや半透明のポリプロピレン製引き出し型ケースやボックスである。さらには、そこに入っている、たとえばハンガーやタオルの色も統一されている。 『love HOME the 収納 シンプルで美しい暮らし