ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

24を作る片づけルール 決定版』ではさらに「舞台裏」の統一が徹底されている。収納用品のほぼすべてが白か黒のモノトーンに統一されており、調味料、食材、あるいは洗剤などが同一の容器につめかえられ、それぞれの容器はなかに何が入っているかわかるよう、ラベルがはられている。無印良品の半透明の引き出しケースの前面には、中身が透けて見えないよう、モノトーンの布や紙で目隠しがされている。本書は極端な例かと思いきや、他の「収納」関連本をみてみても、クローゼット、シェルフ、シンク下や洗面所下などのいわゆる収納スペースに「収納」されている収納用品には白や半透明のボックス、天然素材のかごが使われ、調味料や洗剤は同一の白や透明の容器につめかえられラベリングされるのが定番のようである。 無印良品の収納用品に限って言えば、無印良品の商品と抱き合わせになった「収納」関連書籍がこれまで複数刊行されている9。無印良品の収納用品については、2000 年代に入ってから雑誌や書籍で頻繁にとり上げられるようになった10。近年では特に、無印良品の他、IKEA、ニトリ、Seria といった百円均一ショップなどの、低価格であり、「シンプル」で「定番」の商品に特化した、「収納」をテーマとしたムックや雑誌の特別編集版が定期的に刊行されている。こういった特定のメイカー、小売店の商品が定番となる過程については、住宅事情、購買層の生活水準、あるいは企業戦略なども含めて明らかにする必要があるが、その作業は今後の課題としたい。ここでは、現在刊行されている「収納」関連書籍、雑誌において、特定の商品がとり上げられる傾向があることのみ指摘しておく。 「すっきり(スッキリ)」、「美しい」、「シンプル」などと言い表される「暮らし」のためには、それを体現する整然とした「収納」の様相を呈するための、いわば、「収納」の「収納」が必須のようだ。「収納」することは「収納」され続けていく。「舞台裏」はもはや「裏」ではなく、「暮らし」を貫く美意識を見せるための「舞台」である。しかしながら、「収納」の「収納」は、1-1-1. で述べたような家事の効率化をうながし、時間的あるいは経済的ロスを防ぐための「収納」とは矛盾するのではないかという疑問が生じる。それは、所有物の把握をし難くさせ、所有物と所有者の間に隔たりをつくるからだ。そこで、例えばラベリングが、その距離を解消するインデックスとして働くのだろう。「収納」の「収納」は、住居にある多種多様なものを平準化、均一化し、ラベルという二次元の情報に還元させながら、「すっきり(スッキリ)」、「美しい」、「シンプル」といった「暮らし」のイメージをかたちづくっていく。1-2. creativity と「収納」 これまで述べたように、近年刊行されている「収納」関連書籍および雑誌での「収納」は、個々人の「暮らし」の開示とともに語られ、そこでみられる語り口や「収納」の具体的な様相には一定の傾向をみてとることができる。また、語り手が、「マキ」のような匿名のインスタグラマーやブロガーを含むことも特徴であろう。 もちろん上のような傾向は「収納」の語りかたの一端にすぎない。昨年刊行された『クリエイターの収納術』(石川理恵著、グラフィック社)は、あえて「クリエイターの」と限定して「収納術」にこそ焦点をあてている。2010 年代に入ってから『CasaBRUTUS』にみられる「収納」の特集および特別編集版もその一例である。それらでとり上げられているのは、デザイナー、アートディレクター、ジャーナリスト、アンティークショップのオーナー、スタイリスト、工芸家、建築家、フォトグラファー、イラストレーターといった人々の自宅や仕事場である。たとえば、『Casa BRUTUS』特別編集版「収納上手スタイルBOOK」(2017 年2 月)の冒頭では、