ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

ページ
27/78

このページは 桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016 の電子ブックに掲載されている27ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

25昨今の「『少ないモノと暮らす』がトレンドの時代」を「何だか味気ない」としつつ「好きなモノと上手に付き合いながら暮らす、達人たちの美しく楽しい収納スタイル」を集めたと述べられている。そして、その「アイデアとセンス」を学ぼうというのである。 同じく特別編集版の「美しい収納術」(2013 年1月)は、「収納は知性と想像力」であるということばから始まり、巻頭でとり上げられた平林奈緒美のオフィスについて、彼女の「一連の収納のあり方は、彼女自身のクリエイションと一体になっている」という。ここではそれぞれの「収納術」を個別に紹介することはできないが、1-1. とは異なる「収納」への視点があることのみ指摘しておく。それは、「収納」が、個々のクリエイターが使う収納用品や収納家具の選択も込みで、creativity の発揮の場となっているということ、さらにはcreativity を引き出すしかけとして働くということである。creativity が「アイデア」であり、「センス」であり、「知性」であり、「想像力」であるのか、という疑問は残るが、「クリエイター」とくくられる人たちの「収納」を語ることの背後には、「クリエイション」のヒントが「収納」に隠されているはずだという、語り手の見通しがあるのだろう。「クリエイション」あるいはcreativity をさらに考えるためには、「収納」に加えて、ここでも登場する「整理」ということばが手がかりになるかもしれない。たとえば『CasaBRUTUS』で言われるような「整理」は、クリエイターやコレクターがあつかう膨大なものをグルーピング、モジュール化、レイアウトするなど、それらの量と多様さにいかに関係や秩序をあたえるか、あるいは関係や秩序をあらたに見出す「アイデア」、「センス」、「知性」、「想像力」を持ち得るか、そして、それらの質量を保持させたままいかに「収納」するか、ということである。逆に言えば、こうした「整序」は、質量をもった膨大なものを、ある基準をもって要不要にふりわけ、平準化、均一化し、質量を失わせていくか、ということではない。その点で、世界を、誰もが秩序を見出せるようなユニヴァーサルな領域に還元していくという意味での可視化への傾向とは別の傾向をもつと言い得る。 「整序」ということに着目するならば、2004 年の「FILING」展が思い出される。ディレクションに原研哉と織咲誠をむかえ、「TAKEO PAPERSHOW 2004」の「HAPTIC」展とともに開催された展覧会である11。この時期に本展が開催された意義や経緯について考察することも今後の課題としたいが、「収納」をクリエイターやそのcreativity とともに語る上のような語りかたにおいて、一つの契機となった可能性は考慮しておく必要がある。また、原が「『FILING』展の背後には、僕らの感覚を物質的な存在によって活性させる、「ハプティック」なるテーマがあります。そこから、物質をマネジメントするという発想をファイリングにも採り入れたら面白いなと思ったわけです。」というように、「物質的な存在」を物質的な存在のままいかにあつかうか、その意味や方法の問い直しを「収納」や「整理」という観点から考えることは、現在のデザインの意味を考える上でも一つの指針となり得るだろう。2.「収納」はどのように語られてきたか ―「収納」の系譜 粗雑ではあるが、現在「収納」がどのように語られているか、その一端をみた。「収納」という同一のテーマのもとにみられる異なる方向性には、当然その背景に、「収納」するものの具体的な内容や、建築、住宅事情といった個別のケースが付随している。本研究が現代の「収納」の語りかたを論じようとするならば、事例研究の蓄積がまだ不十分である。蓄積された事例研究を生活文化史の視点から分析し、現代生活の諸相を明らかにすることも可能だろう。ただ、本研究は、あくまで「収納」がデザイン