ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

44 以上の反省に基づき、本研究では「培相」における描画の意義を「手続き・記録」から「描画・表現」へ拡張することを目的として、1 )支持材、2 )基底材、3 )描画材に関して従来規制の見直しをおこなう。支持材について 本研究では、支持材ないし支持体を、絵画が展開する場を物理的に支えるもの(たとえば木製の枠に張られた綿布などがそれにあたる)と定義する。 記録から表現へという課題に向き合うとき、支持材のサイズは無視できない。従来のサイズ(300×300mm)では表現の可能性が制限されてしまうからである。ただし「培相」は自律的な形態生成プログラムに過ぎないから、サイズを決定する要因をその表現内容や主題に求めることはできない、つまり作ってみなければ「適正サイズ」は決められない。そこで本研究では、制作活動の展開性と持続可能性という観点から作品サイズの決定に関与する具体的な要因を考察し、まず標準サイズと上限サイズを定めて試作をすることから始めることにした。 表現の可能性を模索するには試行錯誤の繰り返しが必要であるため、素材の調達が容易(入手経路、費用とも)でなければならない。現在、「培相」に適した生地として、もっとも手に入りやすいのは幅900mm 程度の帆布であり、この生地で張ることができる最も大きな正方形キャンパスの寸法はS25号(803×803mm)である。よって、このサイズを本研究の「標準サイズ」とした。 次に、基底材の開発から始めるとなると、キャンパスを手張りしなければならない。このとき制約条件となるのが室内の広さ、特に天井高である。キャンパスを張る際、頻繁に木枠を回転させることが必要になるから、木枠の対角線が天井高よりも小さくなければならない。一見とるに足りないこうした制約も、制作活動を継続させるためには看過できない。自宅のスタジオ天井高2400mm で張ることができるキャンパス寸法はS100 号(1620×1620mm:対角線は2300mm)が最大であり、このサイズを本研究の「上限サイズ」とした。基底材について1 ── 役割と性質── 本研究では、基底材を、支持材と描画材の定着を強め、様々なテクスチャーによって描画材の表現力を引き出すために施される下地処理の総称と定義する。 本研究において基底材に求められる役割は以下の二つである。 第一の役割は、キャンパスの正面部分に「表現の第一層」を設けるとともに「最終仕上げ層」の一部をなすことである。キャンパスの正面に下地を施すことは、「培相」のプロセスが形態生成の段階から表現の段階に移行したことを象徴する節目となる。また培相は現在のところ線を主体としていため、広い範囲で基底材がむき出しのまま完成を迎える。つまり基底材は単なる下地ではなく、最終仕上げの一部と見なされるのである。 第二の役割は、画面と描画材との関係を安定させることである。一般的な綿布は、織り上げられる課程で防水処理を施されるため、水性の描画材をはじいてしまう。そこで描画材を生地になじませるために多孔質の皮膜を基底材とすることが推奨される。とりわけ線を主体とする「培相」において、基底材は水性画材をよく吸収する性質をもっていなければならない。粘度が高い描画材はのびが悪いため長い線を引くのに適さないが、粘度を下げたき基底材の吸収性が低いと描画材が画面上で流れてしまうからである。今回の研究のように垂直に近い角度に立てられた画面で粘度の低い描画材を用いる場合には、この点に特段の注意が必要である。基底材について2 ──調合と塗布── ジェッソが開発されて以来、アクリル樹脂を固着材とする基底材は様々な画材に使われており、現在も新しい製品が次々に開発されている。これらの中から可能性のある素材を見つけ出し、様々な比率で調合することで、求める性質を持った基底材を制作する。カタログ等によるリサーチの結果、本研究では以下の製品を試用することとした。