ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

56映画の観察ー 映画のなかのメディア利用(その6)ー御手洗 陽 | デザイン学担当Akira Mitarai0. はじめに しばらく前から、社会人や学部卒の受講者と、課題「映画の観察」に取り組む機会が増えた。例えばある日の報告で観察されたのは、主人公のフーテンの寅さんが手にした「お猪口」(おちょこ)という、いささか意外なモノであった。お猪口は誰からも酒を注がれず、寅さんの手で差し出されたまま宙を舞い、なぜかビールビンの上に着地していた。 リメイク版の忠犬ハチ公の物語では、HACHI が外出する主人を引き留めるために「ボール」遊びに誘おうとする姿が観察された。また響き渡る「鉄道の音」を聴いたHACHI が、いつも駅へ迎えに行っていた生前の主人のことを思い出す姿が示されており、クラス全員で犬の主観(予感・記憶)について想いをはせることになった。 1950 年代アメリカで製作されたいわゆる法廷ものがとりあげられたときには、「ネクタイ」や「帽子」と共に「ジャケット」が重要な働きを担っていた。陪審員が全員一致に至るプロセスで、感情的に抗い続けていた男が、独り部屋に残される。それでも彼にそっとジャケットを着せてあげたのは、意外にも最も敵対していた他の陪審員であった。 チャップリンの短編を選んだ報告では、求愛のために訪れた女性の家の前で、彼が近づくと「垣根の戸」が閉じて恋路のじゃまをする様子が見出され、受講者の笑いを誘った。またあのアナ雪では、姉が魔法の力を制御しきれずに城を去った後、妹との再会をうながす媒介としての働きを担うモノとして「雪だるま」のオラフが注目された。 このように「映画の観察」を通じて見出された個別のメディア・モノ利用が、結果としてテーマをもつ作品という全体のまとまりを実現する。身体に用いられる<メディア・モノ>、それによって生み出される<行為・出来事>、他の行為・出来事につながったときの<展開・ストーリー>という、三つの水準に気を配り、観察を重ねた。 その成果としてメディア・モノ利用が、結果として作品を実現する際に担う働きが、今のところ五つあることが明らかになった。以下にパーソナリティや印象の呈示、イメージや記憶の喚起、社会や家族の形成、ストーリー展開の示唆、キャラクターによる媒介という順番でとりあげる。1. パーソナリティ・印象の呈示(1)寅さんと、思うようにならない生活用具。?「男はつらいよ 純情編」:猪口・授乳具+テレビ・缶ビール 作品全体を通じて、身近にある道具・モノを用いながら周囲の人と関わることで、主人公の寅さんがどんな人なのかというパーソナリティが示されているという観察の成果が報告された。 報告時に上映されたシーンでは、旅先にいるか柴又の実家に戻っているかを問わず、主人公の寅さんによって猪口・授乳具・きねなどの道具が、いずれ