ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

59 報告時に上映されたシーンでは、主人がボールを投げるが犬はそれをなかなか拾ってくれないという状態から、ある日突然投げたら拾ってくるという対応の変化が生じ、犬が主人の気を惹くことで、自宅から外出することを止めさせようとする様子が観察できた。その後、それでも主人は職場の大学へ向かうが、犬の「予感」があたり講義中に倒れてしまう。 報告を聴いたクラスからは、ボールと犬というありふれた組合せで特別な意味を持たせることに成功している、犬が主人の死を予期し仕事へ行かせないようにしたことを理解した、はじめはボールが交わされず、最後にようやく交わされるが、意図が通じきらない切なさが効果的に伝わってきたなどの声があがった。 改めて全体の展開に位置づけてみる。まずハチと名づけられた犬は大学教授にたまたま駅のホームで拾われ、その後毎日駅前へお迎えと見送りに来るようになる。上記のシーンを挟んで、彼の死後も、引っ越しした先から駅へはるばる帰り着き、もはや戻らない主人の帰りを待ち続ける。このとき犬が駅へ向かうシーンでは、走行時の響きや汽笛など、鉄道が生み出す音が重要な働きを担う。最後の晩も鉄道の響きを耳にしながら、生前に先生と過ごした日々の思い出を、自らの視点から見上げたイメージで「想起」する[図E,F]。作品の前半から犬からの視点だと推測される不思議な主観ショットが散見されていたが、それはハチが晩年に思い浮かべる先生との思い出の映像へとつながっていた。図E.「HACHI」犬が耳を傾ける鉄道の響き図F.「HACHI」喚起された主人の記憶(2)詐欺師と、架空事件の捏造に活用される文字・図版。~「ユージュアル・サスペクツ」:チラシ・メモ・ファックス+マグカップ この作品の報告では、チラシ、メモなど、犯罪の捜査や取り調べを進める部屋で、事件の諸現場のことを知るために用いられる情報メディアを中心に観察がなされた。またコーヒーなどを飲むときに使われるふつうのカップというモノも重要な働きを担うことが示された。 報告時に上映されたシーンでは、コカインの取引をめぐり組織が争ったとみられる事件で、たった二人の生存者のひとりである容疑者が連行され、刑事に取り調べを受けている。壁にはボードがあり、さまざまな書類や記事の断片、写真などが貼り出されている。捕まえる側にとっては捜査を進める手がかりになるものだが、ここでは逃れようとする犯人の側によって、別に黒幕が存在し導いたという架空の「真相」を捏造する手がかりとして活用されてしまう。 彼はチラシやメモ、カップの底に刻印されたブランド名など、目に飛び込んでくる文字や図版の情報を、即興で関係者の人名などに置き換える。刑事からつきつけられる新情報に応じてその都度ストーリーを捏造し、窮地に追い込まれたふりをして、最終的に刑事からの尋問を切り抜ける[図G]。手がかりを求めて周囲を目で探索しながら「クソッ、なんで知っているんだ…じつはやつはこんな名前で