ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

66五つの働きを担う。寅さんの「お猪口」やヒーローに憧れる男の「スーツ」は、いつも居場所のない寅さんや、真の正義と私的な復讐のあいだで揺れる男の①「パーソナリティ・印象の呈示」を実現する。「鉄道の音」は犬のHACHI が主人と過ごした日々の思い出し、「カップ」のロゴ詐欺師が即興で架空の事件を捏造するための②「イメージ・記憶の喚起」を実現した。 「ジャケット」は市民であろうとした陪審員のメンバーをねぎらい、「焼肉」は夕飯を夢見る家族を一体にさせ不条理なトラブルを乗り越えさせることで③「社会・家族の形成」を、また「垣根の戸」はチャーリーの恋の行方に影を落とし、特に棺という「四角いもの」は遺体の不在により生存の可能性を伺わせることで④「ストーリー展開の示唆」を可能にする。離ればなれになった姉妹を再会させる「雪だるま」と、少年と特別な関係をもち、他の色の風船にも祝福される機会をもたらす「赤い風船」は、⑤「キャラクターによる媒介」を実現していた。 これらの五つの働きを通じて、利用されたメディアは作品としてのまとまりを生み出している。①「パーソナリティ・印象の呈示」では、居場所のない寅さんが旅先から帰郷し再び旅へ出るのをくり返すことが「男はつらいよ」というシリーズ全体に共有された展開であり、「スーパー!」のテーマは、自分は選ばれたと思い込んだ普通の男が手製のスーツでヒーローになろうとする姿の滑稽さと不気味さを通じて、正義を軽やかに問うことであった。②「イメージ・記憶の喚起」では、死別による主人との永遠の別れが訪れた後で、共に過ごした幸せな時間を想う犬の様子に心を揺さぶられるのが「HACHI」であり、詐欺師が即興で捏造したストーリーで最後まで警察も観客も見事に騙されてしまうのが「ユージュアル・サスペクツ」である。 ③「社会・家族の形成」では、「十二人の怒れる男」が、市民社会の存立というテーマを、陪審員として偶然選ばれ、ジャケットを着用して集まった市民による合意形成のドラマとして示していた。また「クレヨンしんちゃん」では非日常なトラブルがあったとしても、焼肉という日常のなかのささやかなイベントで一体化できるのが家族であることを示している。 ④「ストーリー展開の示唆」と⑤「キャラクターによる媒介」については、それぞれのメディア・モノ利用の働きが作品の実現に関わることが、より直観的に理解できる。 「サニーサイド」では、チャーリーの恋の行方に影を落とす垣根の戸は、チャーリーによる求愛とライバルの出現による失恋、さらにそれが幻であることで二人が結ばれるという展開を支えている。「第三の男」では棺をはじめとする「四角いもの」は埋められていたはずの男が生存している可能性を示し、彼を追う者とのあいだにかけひきが生み出される。「アナと雪の女王」では仲良しな姉妹の別れと再会、そして姉妹間の真実の愛の発見が、「赤い風船」では互いに自由な関係をもてた少年と出会い、それ