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[エコデザインとは] 生きのびるためのデザイン

エコって?

聞きなれた「エコ」という言葉は、ある言葉の略ですがご存じでしょうか。 「エコロジー」という答えが多く返ってきますが、「エコロジー」は生物学における生物と環境の相互作用、もしくは生態学を指しています。「エコノミー」という答えもよく返ってきます。「エコノミー」は、ある社会が生産消費活動を調整するシステム、あるいはその活動そのものを指しています。近代社会ではこのシステムは貨幣交換が主流なので、主に経済学を指します。

オイコノミア

エコデザインと聞いて生態系のデザインや、経済システムのデザインをイメージする方は少ないでしょう。しかし、エコロジーとエコノミーが古典ギリシャ語の「オイコノミア(家庭のやりくり)」を同じ語源としていることからもわかるように、この二つは切り離すことのできない大切な人間活動です。

エコシステム

「エコシステム」とは生態系を表す言葉です。生物と環境の間で交わされる資源(エネルギー・物質)の循環関係のことです。経済的にも合理的な循環の仕組みを作らなければなりませんが、この仕組みのことも経済学の分野で「エコシステム」と呼んでいます。私たち人類は地球の一部として環境との循環関係を保ちながら、地球規模のエコシステムのなかで経済的にも両立を目指したいのです。

エコデザインの定義

サステナブルデザインの回で説明をした地球一つで100億人を支えられる社会で、生物と資源と環境の適切な循環関係(エコシステム)を築くこと、地球規模のやりくりが広義のエコデザインです。なかでも、そのための具体的なデザイン手法の集合知を、「エコデザイン」と定義します。

エコデザインの「エコ」とは?

実はエコデザインの「エコ」はエコロジー(Ecolgy)やエコノミー(Economy)の略ではありません。Eco designの表記は適切ではなく、正しくは 【e-co design】であり、environmentally conscious design(環境に配慮した設計)の頭文字をとっています。エコデザインの「エコ」は「環境に配慮する」の略語ということです。

人間が生き延びるためのデザイン

1970年代、人類は人間活動の拡大に対して地球は思ったより小さいことに気づき、そして、エコデザインが挑む相手は地球や環境ではなく、住み続けられない条件に地球を変容させつつある人間活動そのものだと認知しました。サステナブルデザインやエコデザインは、地球を守るデザインではなく人間が生き延びるためのデザインです。

地球環境問題の本質

人類が住み続けるのに適した条件が急速に損なわれている地球の環境問題の原因は明白です。 人類によってもたらされた爆発的な世界人口の増加です。何万年もの間、3億人程度で推移してきた人口は、発端となる産業革命以降のわずか300年(2050年)で30倍超の97億人に達すると予測されています。(2020年現在78億人) 人類の成長志向と爆発的な人口の増加に対し、地球は小さすぎました。伴って拡大する世界規模の経済発展は同時に多くの持続不可能な問題を生み出しています。

富の偏在

現在進行系の爆発的な人口増加は、OECD(経済協力開発機構)に未加盟のいわゆる経済後進国と発展途上国で起きています。にもかかわらず世界人口の20%の工業先進国(OECD加盟国)が世界の資源・エネルギーの80%を消費して世界経済をけん引しています。人口が増加する地域では、水や食料のほか、資源や生産地が不足し始めています。 近年は、国家を超えた巨大企業(GAFA※)などの台頭により、経済だけでなく情報も含めたあらゆるものごとの偏在による格差が加速しています。まずは、富める者から消費の削減を始めるべきではないでしょうか。(※グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)

資源・エネルギーの不足

1972年、スイスの環境に関する民間シンクタンク「ローマクラブ」によって予見報告書『成長の限界_人類の危機レポート』が示されてもなお、資源・エネルギーの需要は経済・産業の成長とともに増え続けています。人類の成長志向を停めることは不可能でしょうが、資源・エネルギー消費の拡大を伴わない成長の方法は見つけなければなりません。

水と食糧の不足

地球上の水は、97.5%が海水です。気象システムによって海水から淡水化された2.5%の水のうち、人が使用できるのは全体のわずか0.8%。しかしそのほとんどは地下水で、効率的に利用できる地表の水は、0.01%です。森林伐採と灌漑によって砂漠化が進行した地域では、すでに5億人分の地下水が枯渇しています。水資源は食糧生産に直結しているので、不足すれば食糧事情に影響が出ます。人口増加率に対し、一人当たりの穀物生産量は1980年以降減少し続けています。

気象変動

1970年ころまで、環境問題は身近な住環境で直接的に体感する「公害問題」でしたが、今では巨大ながらどこかで起きている間接的で感覚的な「地球の環境問題」に変化しました。私たちはすでにその一端を体感しつつあります。近年、海水温度の恒常的な上昇により気象発生の時期と場所が常に変化しています。蓄積してきた気象データが役に立たず予測が困難となり、発生する気象の多くがゲリラ化しています。そのため、地域災害対応への遅れによる被害の拡大が世界で頻発し、季節変動や気象の激化は農業や水産業へも深刻な影響を与えています。この気象変動は、人間による最も深刻な地球環境破壊です。

地球の温暖化

地球の平均気温は産業革命以降から上昇し始め、1970年頃には0℃付近に、以降も上昇を続けており、2016年には+0.6℃、2020年には+1.2℃となりました。 2030年には+2℃に達するとされ、この平均気温の上昇値は大規模な気候変動の臨界点となり、2050年にはさらに+3℃を超えて、気象変動の巨大化が加速すると予測されています。

温暖化の要因

近年の温暖化加速の最も大きな要因は、大気中の温室効果ガスの増加によるとされています。大気中の水蒸気に最も温室効果(熱を蓄える性質)があり、その次が二酸化炭素です。人間活動による直接的な水蒸気の増加は少ないものの、二酸化炭素濃度は産業革命以前より40%増加しています。二酸化炭素濃度の上昇とともに気温が上がり続ければ、いずれ大気中の水蒸気濃度も上昇し、温室効果を加速させることになります。

CO2排出の要因

二酸化炭素の排出増加の主な要因は、産業革命以降の地下資源(化石燃料)の利用によるものです。生物の誕生以来永い年月をかけて地下に封入された有機堆積物である化石燃料(石炭や石油など)の炭素は、燃やすと空気中の酸素と化合して二酸化炭素になります。この反応で放出される熱エネルギーを人類は産業効率化のために求め続けています。 2021年、国連ICPP(気候変動に関する政府間パネル)は二酸化炭素濃度の上昇による温暖化とこれに起因する気象変動は、人間活動によるものであると断定しました。

人間活動に起因する環境への負荷

永い間安定していた地球全体の物質循環は産業革命以降急速に変化しました。科学の発展により自然界に存在しなかった組成や物質を生み出し、地球に備わったエコシステムでは循環しない科学物質が生物を含む環境に蓄積し、予測不可能な影響を与えています。発がん性や生物ホルモンに作用する化学薬品や化学物質、化石燃料や鉱物などの地下資源から生成された樹脂や金属もまた、地上のエコシステムでは循環(分解)されずに環境に蓄積され続けています。このような人的に発生する変容や浸食・汚染を、環境へ与える負の影響として「環境負荷」と呼んでいます。この環境負荷もまた、人間による地球環境破壊といえます。

エコデザインツール

エコデザインはこのような深刻な事象の原因を生み出している元を断つためのデザイン行為です。「サステナブルデザイン」の回で「今、やるべきではないこと」としてナチュラルステップが提示した「4つのシステム条件」に積極的に応えるための具体的なデザイン手法をエコデザインツールとして紹介します。

Factor X

まずは資源・エネルギーの消費量をどれだけ削減できるのか。これに取り組まなければなりません。このとき用いられる指標の一つが「Factor X(環境効率)」です。「環境への負荷を最小化しつつ価値を最大化する考え方」として、1992年ローマクラブのレポート「第一次地球革命」では地球全体で環境効率を4倍に高めるべきであると提示されました。これを「Factor4」といいます。これまで発展途上の国々に先んじて資源エネルギーをたくさん使用してきた工業先進国(例えばOECD加盟国)では、更に高い目標を率先して掲げるべきで、日本においては少なくともその目標はFactor20とも言われています。
不可能なことのように感じますが、製品単位で見てみると、例えばLED電球のようにこれまでの白熱フィラメント電球に比べて製品寿命5倍(性能)で消費電力5分の1(環境負荷)とすると、Factor25をも達成している事例もたくさんあるのです。あらゆるものごとをこのように置き換えていくことが必要です。

4Rから考えるエコデザイン

「3R」というのは聞いたことがあるでしょう。 Reduce(リデュース・減らす) Reuse(リユース・再利用) Recycle(リサイクル・再資源化) を指し、環境省・経済産業省が広く提唱しています。しかし、この概念には第一番目に来るべき、最も大切なRefuse(リフューズ・やめる)があり、この4つをもって「4R」と呼びます。 4Rには、順序があり数字が大きくなる毎に環境への負荷が大きくなるので、絶対に順番を変えてはいけません。大切なのは、より小さな数字の付いた行動を目指すことです。

モノと技術のエコデザイン

エコデザインの観点からすれば、Recycle(リサイクル・再資源化)は最終手段であり最初に目指す目標ではないのです。再資源化の文字通り、これは製品を材料の状態まで戻すことを指していますから、この工程にかかるエネルギーは他の3つのRに比べて莫大なのです。 例えば日本では「ペットボトルはリサイクルへ」と謳われて、回収してPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の材料に戻しますが、EUでは、「ペットボトルはリユース」です。回収したペットボトルを洗浄して再充填し、少なくとも5回は繰り返してペットボトルとして再使用されます。

仕組み・サービスのエコデザイン

3_Reuse:再使用 4_Recycle:再資源化 は モノと技術のエコデザインといえますが、1_Refuse:やめる  2_Reduce:減らす は仕組み・サービスのエコデザインと捉えることができます。 リサイクルを前提にペットボトルを薄く軽くして潰しやすくすることもできますが、ペットボトルの使用を「減らす」努力も大切です。そしてもしこの使用を「やめる」ことができれば、日本中で200万台を超えるという自動販売機を減らすこともできるかもしれません。近年、省エネ化が進んだとはいえ、一台の自動販売機の消費電力は、一般的な戸建住宅一軒分にも相当する場合があるのです。4Rにおいても高い目標を目指すことで、Factor Xに照らしたものごとの置き換えに貢献して環境効率を高めて行けるはずです。

戦略的エコデザイン

プロダクトデザイナーに特に求められる職能としての具体的なエコデザイン手法が、「組立性・分解性設計」と 「LCD(ライフサイクルデザイン)」です。概念的なFactor Xや4Rより、直接的な戦略的エコデザイン手法です。

「組立性・分解性設計」

製品に用いる資源・エネルギーを最少化するために「生産時」「使用時」「廃棄時」に行われる様々な組立作業・分解作業を理解し、予め製品設計に反映していくことで製品の環境性能を高めるエコデザイン手法です。「 部品(パーツ)」・「 結合(ジョイント)」・「 配置(フレーム)」の構成方法で製品に関わる資源・エネルギーの無駄遣いを削減します。実はこの設計思想のおかげで私達は製品をより長く使用することができるのです。電池を交換できたり、壊れたところだけを修理できるようになっているのですから、ロングユースやリユースに大きく貢献します。分解性設計は廃棄の際の分別にも役立つので、リサイクルにも貢献します。

LCD(ライフサイクルデザイン)

ライフサイクルデザインは、1997年ISO(国際標準化機構)により発行された国際基準「LCA(ライフサイクルアセスメント)」に基づいて取り組むエコデザイン手法です。製品やサービスのライフサイクル全体にわたり、資源消費量やエネルギーを計量し、環境影響に対し定量的に評価します。

© openhouse 株式会社オープンハウス

製品のライフサイクル全体とは、地球環境からの「原料採取」~地球環境への「廃棄」までを指し、そのサイクルの過程に「加工」「製造」「組立」「包装」「流通」「購入」「使用」「保守」「再利用」 があります。それぞれの過程もすべてがデザイン対象だと捉えると取り組むべき課題も明確です。
  1. 1.イノベーションデザイン
  2. 2.負荷の低い材料のデザイン
  3. 3.最適化された製造方法のデザイン
  4. 4.効率の良い流通のデザイン
  5. 5.負荷の低い使い方のデザイン
  6. 6.最適化された製品寿命のデザイン
  7. 7.最適化された処理方法のデザイン

© openhouse 株式会社オープンハウス

このように具体的かつ直接的に様々な分野のデザイナーがエコデザインに取り組むことで、ひいては持続可能な社会の実現を目指すサステナブルデザインに寄与します。

「生きのびるためのデザイン」

サステナブルデザインやエコデザインという言葉は広く知れ渡りました。しかし、地球一個で100億人をまかなう社会の実現に対し、資源・エネルギーの消費量削減は、残念ながら一人ひとりのエコ意識に頼るライフハック(エコな製品やサービスの選択)ではとても追いつかないところに来ています。 「サステナブルデザイン」の回で、サステナブルデザイン元年とも言えるとした1972年、アメリカ人インダストリアルデザイナーであり教育者のヴィクター・パパネックは、デザインとデザイナーに対する痛烈な批評書「生きのびるためのデザイン」を発表しました。 「デザインは、人間の本当の欲求にこたえるような道具となるものでなければならない。それは、革新的で高度に創造的な、そしてもろもろの分野を貫いたものとなるのでなければならない。それは、いっそう強く研究をめざすものでなければならない。そしてわれわれは、デザインのまずい品物や構造物で地球そのものを汚すのをやめなければならない。」(パパネック)

真のデザイン

製品やサービスを創出して、人間らしく豊かな生活環境を生み出すのがデザインの役目ならば、その生活環境こそ「大きくもならない増やすこともできない100億人が乗る宇宙船地球号」と捉え、デザイナーはその乗組員としてデザインを「生き延びるための使命」として捉える時代であり、それをして本来の役割を全うすべきでしょう。 サステナブルデザイン元年から半世紀、いつまでもパパネックの批評にさらされ続けるわけには行きません。 「デザインは、もしそれが生態学的にも責任を持ち、社会にも敏感に反応するものであるべきだとするならば、革新的で急進的でなければならない」(パパネック)との進言を念頭に 物質的・生態学的な要求にこたえる「エコデザイン」こそ、サステナブルな社会の実現のための 真のデザインと呼ぶにふさわしいでしょう。

この記事の監修者

桑沢デザイン研究所

プロダクトデザイン分野専任教師
本田圭吾
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