デザインに於ける基礎について
郡山正  


 基礎という言葉には二様の意味があり、その二つは互いに相入れない根本的思想から出ているように見える。

 一つは、専門に達するための教育的土台としての「基礎」という概念であって、その意味では「Primary」という気分をもったものである。専門家がすすむにつれて、そのままでは幼稚なものとしていづれは脱ぎ捨てられる。

 他の一つは、それぞれの専門についての、anti-these的探求の総体を指していて、つまりその当面する現実の問題を解決するにあたって、問題へのダイレクトなアプローチとは正反対のリサーチを行う場合、いいかえればリアクション的解決を「基礎」と呼ぶ概念である。

 前者が建築の土台で代表されるとすれば、後者は植物に於ける根にあたる。

 前者は、全体の計算の上に、それに耐える基礎工事をし、増築する時は、補強しなければならない。後者は、全体の計算が先にあるのではなく、専門の伸びに対して、絶えず基底も伸びて行くから、補強という概念はない。自分の専門が伸びることは、とりもなおさずその基礎が伸びていることなのである。このような基礎力は、それを教育されなければ、生長することは困難であって、専門文科への教育と同等な意味での、もう一つの対極的な専門分野である。対極的という意味は、一方があくまでも実際に役立つ方法に重点を置かねばならないのに対し、他方は、実際とは遊離した、場合によっては隔絶した場に於いて論理的に感覚的に果てしない分析と追求がなされるからである。「土台」は伝授があって教育がなく、「根」は教育があるが伝授はないのである。日本の教育には殆んど教育が不在しており、このため一般に「伝授」が最良の「教育」という最もプリミティブな姿だけが理解出来るようである。

 (この稿つづく) 1965,2,10