ドレスデザインにおける感覚実習
海本小織  


 ドレスデザインにおいては、造形要素(色・材質・形)や、機能的要素(人間工学・生活環境)と、デザイニングの問題としては、豊かな発想と表現、またそれを具体化するための的確な技術が必要です。このような多くの要素を綜合し得る構成力や、よい感覚を養成するためには、ドレスデザインの基礎感覚の教育が重要だと思います。

 ドレスデザインとは、人間の身体の包み方のデザインのことであり、西洋の古代の服は、原則として裁断のない一枚の布地を、身体にまとっていたのに過ぎなかったのですが、その包み方が時代とともに、生活の中で発展して今日にいたっています。そのまとい方によって、色々の美しさや、効果が現われる事は衣服を着て生活してきた私達人間が、誰でも感じ、考える所だと思います。

 このように衣服は、人間の身体につけられて、立体となって初めてその効果をあらわすもので、例えば衣服は、ハンガーにかけられたり、たたまれたりしている場合は静的ですが、身体にまとうと動的に変化し、身体の動きに合せて、色んな動きと形をみせてくれます。

 これは他のデザイン分野にみられないニュアンスといえます。

 したがって、ドレスデザインの基礎感覚の教育では、実際に衣服を創作する前の段階として、その創作する人の豊かな発想力の養成と、素材を綜合的に把握して美しい量感を表現する研究が必要です。その具体的なドレスデザインの感覚実習として、次に 1/2ボディを基本軸として立体実習の例をあげてみます。 はじめは、特にドレスのシルエットにこだわらず、自由な抽象的な形から追求していきますがこの場合素材としても最初から布地にこだわる必要はありません。

 例えば、平面の紙・その他を、どのように扱ったら、美しく立体を包んでいく事が出来るかという事を考えさせます。

 この事は、衣服の製図の基本的な考えとつながります。また作りながら、色々なテクニックを加えたりして、全体を美しい量感にまとめていきます。

 出来上った立体は、平面の素材が違った生命をあたえられたように、立体的な魅力を発揮するのです。

 このように、立体を包むという事のテクニックと、作りだされるシルエット、そしてそれの持つ表情・効果の追求においては、その範囲は大変広いといえます。実習においては、色々な角度からテーマをあたえて、それぞれの素材の持味をいかし、テクニックによってよりよく美しい形とバランスを表現出来るように研究しながら、次第に素材を衣服の素材に移向させていきます。

 衣服の素材においては、軽くて薄くはりのある布・軽くてたれる布・薄くてかたい布・光沢のあるたれる布・かたくてザクザクしている布・やわらかい布・しっとりとした布・厚くて重たい布・厚くてザックリしている布等、色々の表情をもった材質があり、色によっても、それらの組合せを工夫することによってもさまざまの効果を表わせます。

 包むという事から始まったドレスデザインの仕事をする人々の、豊かな創造力によって、美しい量感が巾広くつちかわれて、よりよい衣服が生れる事を望むためには、このような立体における感覚実習の内容や方法の充実発展を研究する事が重要だと思います。

 ここに掲載した写真は、このような目的によるドレス科二年生の感覚実習課題作品の一部です。

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