PAGE | 1 | 2 |

35ミリ一眼レフカメラへの提言
河合玲二  


 写真を職業とするものにとって被写体と、その表現すべき内容についての研修はもちろん重要なことである。

 しかし、それと、同時に、その表現を適確にするための技術的な解決方法も同等な必要性を持っていて、それを無視して職業上の責任は果しえないことになる。

 その技術的方法のうち第一に問題となる事が使用機材、特にカメラを選択することであろう。

 一方、総体的に見て現在のカメラというものは極めて一般化した機械であり、特に我国では殆ど総ての製品が、いわゆるアマチュア対象であるため、どうしても仕様はカタログ面を派手にするための不必要な追加機構が多く、また店頭で、比較的半断力の低い階層によりアピールするようなデザインが行なわれている。

 この現状の中で、自己のイメージをより適確に表理できるカメラを択ぶためには、ある程度の機構上の知識と、機械設計についての根本的な判断力を持つ必要がある。

 こうした意味から、リビング科3年写真コースで私の担当する時間では、表現目的に則したカメラ機構理解を重点とした実習を行なっているが、特に今回は現在主流的なカメラ型式となっている35ミリ一眼レフについての問題を上げて見たいと思う。

 これは現在発売されている全カメラ機種のうち、カタログ記載の約30%を占め、又、小売価格一万五千円以上のいわゆる中高級のスチールカメラでは90%を占めている械種で、将来にわたって小型カメラの決定的な形式といわれ、また一種の万能カメラとして一般に認識されているものである。

 しかし、これは完全に正当な評価とは云えない点がある。

 昔から、永久運動と並んで万能機械という迷信があるが、多用途な機械というものは存在価値を持つが、万能機械というものは存在しえないし、又実用価値も持ちえない。

 この点、現在の一眼レフ氾乱は誤解と錯覚に基づくカメラ製造業者の商策の結果であるといわれても仕方がないであろう。

 したがって、我々としては35ミリ一眼レフカメラに対して、もう一度、その効用価値と位置づけを検討してみる必要がある。

 問題はまず多種にわたるカメラ形式の分類に始まるが、ふつう、画面サイズ、シャッター機構・暗箱部構造、フォーカシング機構が分類の基準ときれている。

 35ミリ一眼レフもその点、レンズ交換に際し自由度が大きく、比較的高価なフォーカルプレーンシャターのものと、比較的安価なレンズシャター装備のものの二種類に分けられてはいる。

 しかし、こういった分類は工業的、商業的な分類ではあっても、写真を制作する立場からの分類としては適当ではない。

 非常に特殊な例外を除き、カメラ形式には大よそ二つの流れがあると思われる。

 その一つは写真技術発生の動機である、より完全で客観性のある再現、描写能力への要求から作られたビューカメラの系列であり、一つは時期的に、やや遅れて写真原理の確定した頃から要求されてきた作業の迅速化に応えて、製作されてきたハンドカメラの系列である。

 ニつの要求は、もちろん独立したものではなく、表裏一体で不可分といえるが、カメラとして要求される性能は前者がまず主であり後者が従であろう。

 この事を云い替えれば「良く写るカメラ」という事は「便利なカメラ」という事に優先する価値が与えられるのが一般であるといえよう。

 しかし場合によっては後者の要求が絶対のものとなる事もある。

 ビューカメラの系列にあるものには、写場用カメラ・テクニカルビューカメラ、組立暗箱(フィールドカメラ)等、完全なレンズ投影像をピントグラス上で見るものと、旧式な大型一眼レフ、66判一眼レフ、マミヤC3のような特殊な二眼レフ等があり、比較的寸法の大きなネガサイズを持つことが特徴といえる。

 これに対しハンドカメラの系列では、大型プレスカメラ、二眼レフ、レンジファインダー35ミリカメラ、スプリングカメラ、広角レンズ専用カメラ、ハーフサイズ以下の超小型カメラ等があり、ネガサイズは常に小型へ移行する傾向があると共に、そのフォーカシング機構が目測を含め、実際の撮影画面に対し間接的な方式を持っことが特徴である。

 35ミリ一眼レフは通常このハンドカメラの系列にあるものとされているし、又特に高い性能を求められない限り、これらハンドカメラ系の機種に求められる機能は一応果すことができる。

Next