ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

いつもと異なる仕方で観る―「視点が変わる」ための映画メディア利用―御手洗陽|デザイン学担当Akira Mitarai1.本年度の学園祭において、テーマに選ばれた「五感」について話すようにという、学生からの依頼があった[注1]。また彼らが自主的に発行しているフリーペーパーの特集も同じ「五感」であった。いろいろ相談をするなかで、観察を通じた発見がもたらす驚きや、身体感覚が活性化されることの面白さなどが話題となり、このテーマがある種の解放感に結びつくものとして、また創造性に深く関わるものとして共有されている様子が伝わってきた。本稿でも同じ問題関心から、「視点が変わる」ことを実現しうる、メディア利用について考察する[注2]。通常メディアの実験的な利用は、アートやデザインに分類される、インスタレーションや空間演出において経験される[注3]。光や音など、さまざまなメディアが構成する空間に、自らの身体で居合わせることを通じて、たしかに、ふと「視点が変わる」経験をするときがある。同じように教育に分類される講義や演習の場でも、そんな講師自身の経験を紹介するだけでなく、さらに「視点が変わる」経験をその場で生み出すことができないかと考え、さまざまな実習的な課題に取り組むようになった[注4]。ここでは前年度に引き続き、映画を素材にした課題に受講者と共に取り組んだ成果をまとめたい。映画を鑑賞するのではなく観察し、シーンやストーリーを構成するメディアやモノに注目することで、作品世界がそれまでとは異なったものとして映りはじめる[注5]。いつもとは異なった仕方で観るというただそれだけのことなのに、ふと気がつくと「視点が変わる」経験が訪れている。2.本年度になってから、以前よりも理解が進んだことがある。それは映画に登場するメディアが、作品世界を生み出すときに、いったい何を実現しているのかということについて、である。まず第一に映画の作品世界のなかで、メディアは利用者という存在を出現させることができる。このことを端的に示す作品では、姿が見えない何者かの存在を示唆したいときに、それが利用している状態やその結果を示すという手法が採用されている。例えば『シックス・センス』(監督:M・N・シャマラン、制作年:1999年)では、キッチンの開け放たれた戸棚の扉と引き出しが、それを開けた何者かの存在を示すモノとして利用されている。隣室へいったん出てすぐに戻った母親が、わずかな時間であるにもかかわらず、いっせいに開かれているのを見て驚き、朝食をとっていた息子にいったい何を探していたのかを問いただす[図A]。母親としては、誰が開けたのかを確定することで、いらぬ恐怖をかき消したい。しかし一緒に登校をしようという友人の呼びかけに応じ、息子が部屋を出て行った後、彼が食事をしていた机の上には、ずっ8