ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

図A.『シックス・センス』図B.『火垂るの墓』と手を乗せていたからこそ、曇ったままの手形が残っていた。やはり戸棚の扉を開けたのは、息子ではなかったらしい。だとするなら、一瞬にして開けたのはいったい何者なのか。作品では息子には実際に何者かが見えているという事実を次第に母親が受け入れることで、二人の間に積み重ねられてきた誤解が和解へと転じていく。また『火垂るの墓』(高畑勲、1988年)では、光のメディア性がうまく活用されている。このことはタイトルがたんなる「蛍」が選ばれていないこととも関連していると思われるが、第二次大戦時に父と母を失い、戦争孤児となった兄妹が餓死するまでの物語展開において、蛍が発する光を通じて、見えない死者の存在が、生者へ向けて可視化される。より精確にいうなら、蛍の光を介して、姿が見えない戦死者が生者の前に姿を現し、さらには生者へ関わろうとする。例えば兄が空腹に耐えかねて、畑から作物を盗んだのを見咎められ、派出所へ連行されるとき、独り残されて孤立し、死へ近づく妹の側に、それとなく光る蛍が寄ってくる[図B]。最後の場面でも、現代のビル群に囲まれている私たちの周りにも、直接には見えないまま、じつは戦死者が取り囲んでいることが、蛍の光を介して示される。他にも空を行く特攻機の点滅や父が乗り込んだ連合艦隊の照明など、戦争を通じて死に行く者もまた光を介して現れ、想起されている。3.メディアを介して、直接には見えない存在がはじめて見えるようになる。メディア利用を通じて姿を現すのは、ただし、幽霊や死者だけに限られない。第二にメディアは利用者を特定の属性をもつものとして出現させる。例えば何らかの社会的な地位にあるものとして、また特定の集団・組織に帰属するものとして現れる。ただし、実際にそのような存在であるかの真偽を問わず、何者かになりすましたり、身分を詐称したりする者としても現れる。例えば衣服を周囲や自分自身に与える印象を操作するメディアとして利用する結果、何者かになりすます人物が現れる。『キャッチミー・イフ・ユー・キャン』(S・スピルバーグ、2002年)では、パイロットの制服を着用する男が衣服の威信により信頼を得て、偽小切手の換金と逃亡に成功する。また『ディア・ドクター』(西川美和、2009年)では白衣を着用し、患者に親身に接することを通じて、ある意味で本物の医者以上に地域社会で信頼され、本人もそれに応えることで居場所を得てきた「偽医者」が登場する。また『スター・ウォーズエピソード1 /ファントム・メナス』(J・ルーカス、1999年)では女王として衣服を着用し、化粧を施すことで、侍女の一人が影武者になり、女王になりすます。このことは影武者になった者以上に、真の女王に内面の変化をもたらしている。彼女は影武者がなりすましてい9