ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

図C.『昭和歌謡大全集』図D.『桐島、部活やめるってよ』る間、遠く離れた辺境の星を訪れ、残存する奴隷制やそれにしたがい暮らす親子を目の当たりにする。それまでにはない体験を経た上で帰還し、再び元の姿に戻ることで、意識の上でも女王と呼ばれるのにふさわしい存在へ近づいていく。『昭和歌謡大全集』(篠原哲雄、2003年)では主婦と大学生のグループが、ふとしたきっかけで互いのメンバーを殺し合い、復讐をくり返す。直接の戦闘時や復讐達成後のカラオケパーティーなどで、ミリタリールックやボンテージファッションなど、メンバー間で統一された衣服が着用され、それまでの日常では味わえなかった、メンバー個々のナルシスティックな充足と、メンバー相互の一体感が同時に生み出される[図C]。そしてそのような至高の輝きをもつ時間に飢えたグループの間で、さらなる悲劇的で喜劇的な復讐がくり返されていく。また『エイトレンジャー』(堤幸彦、2012年)でも衣服が内面に与える影響が重視されている。ここではヒーローの現代的な再定義がなされた上で、いわゆる戦隊もの風のヒーロースーツが用いられる。未来を舞台に設定された作品世界では、六才時に課される国家の選考に残った少数者だけが価値を持ち、その他の大多数は脱落者として扱われる。ここでは生まれついてのヒーローは存在せず、普通の人が借金の返済などの私的な事情から、仕事としてヒーローという役割へ適応しようとする。このときスーツはそれにふさわしい人になるという自意識を抱かせて成長を引き出すメディアとして機能する。またメンバーが互いに協力しないと本領が発揮できないという制約が予め課されていることで、同時にメンバー間の関わりを深めるメディアとしても働いている。4.上記の衣服のように、映画作品ではメディアを通じて、利用者を特定の社会的地位やグループのメンバーにある者として存在させうる。またそれと同時に、そのような存在であるからこその意識も生み出しうる。第三としてメディアは利用者を存在させるだけでなく、さらには利用者の意識をも形づくる。それは自意識を生み出し、アイデンティティの形成に深く関わる。『桐島、部活やめるってよ』(吉田大八、2012年)では、野球部のカバンが、それを肩に掛ける男子高生の揺れ動く意識を形づくる。いわゆるスクール・カーストのなかで、それなりに「イケて」いる位置にいる彼は、野球部に所属しつつも練習には参加せず、帰宅部の友人と自転車の二人乗りして下校するとき、おまえのカバンがかさばると言われても、けっして手放すことはしない(「そもそもそのカバンは何?」)[図D ]。彼は練習に参加しないユーレイ部員なのに辞めさせられず、むしろサボることが許されているという特別な位置にあることを周囲に示すと同時に、それを掛ける肩の感触を通じて、そういう特別な存在で10