ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

ページ
18/72

このページは 桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013 の電子ブックに掲載されている18ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

戦後まもなくの「デザイン」における「規格」の意味―日本のデザイン言説史研究―北田聖子|デザイン学担当Seiko Kitadaはじめに本研究は、デザイン言説に基づいたデザイン史を編む試みである。ここでいう言説とは、デザインについて書かれたあらゆる文章である。そうした意味でのデザイン言説は、デザイン実践を分析し、理論化、歴史化するための資料としてあつかわれてきた。それに対し本研究は、言説がデザイン実践にすでに編みこまれている、つまり、言説それ自体がデザインの歴史の断片であるとみなす。そうした立場に立つ時、言説の集積が一つのデザイン史を構築するという可能性が開けるであろう。本稿がとりあげるデザイン言説は、戦後すぐにはじめられた標準化および規格化、特に事務用(オフィス)家具の工業規格に言及した資料である。具体的には、1951年(昭和26年)に日本工業規格「JISZ 5301事務用家具(机・卓子・いす)」が制定される際に標準化について論じた、建築、デザイン関連の雑誌記事をみる。「JIS Z 5301」は、事務用家具の最初のJIS(日本工業規格)である。最初の、とあえて言うのは、事務用家具のJISはその後改訂が重ねられ現在に至っているからであるが、今回は「JIS Z 5301」に焦点を絞り、特に『工藝ニュース』の記事を中心にとりあげる1。標準化は、近代デザインの重要な課題であった。戦前日本においても標準化の実験的活動は、近代デザインの受容とともに、生活合理化運動、産業合理化運動と結びつけられながら展開された。さらに、戦時下の経済統制のもとでは、いわば最低の条件で最良の家具をという標準化研究が要請された。例えば剣持勇の『規格家具』(相模書房、1943年)がそのような流れのなかで著されたのはよく知られるところであろう。工芸指導所(1952年に産業工芸試験所に改称)は、戦前に工芸の産業化、工業化を推進するという目的から出発し、機関誌の『工藝ニュース』は同所の実験的活動や理論的研究、同時代のデザインに関する動向を紹介するなどして、工業デザインを基本としたデザインの啓発的な役割を担っていた。そのなかで標準化や規格の話題もたびたび取り上げられていた。では、戦前および戦時中にとりあげられていた標準化や規格は、終戦を経て、戦後どのような文脈で言及、議論されたのだろうか。一口に標準化といっても、その実相は複雑であり、複層的である。歴史に編まれた一つの事象の複層性をみぬきながら、それぞれの層を明らかにすることもデザイン史研究においては重要であり、筆者はこれまでむしろその複層性を明らかにすべく戦前および戦後の標準化の事例研究を重ねてきた。しかし、本研究では標準化に関する理論と実相を詳らかにすることに重点をおかない。本稿では、戦後まもなくという時期に標準化全般と事務用家具の規格化にむけてどのような議論や理論化があったのかを整理し、それらデザイン言説の担い手が当時において抱いた問題意識を探ることに重きをおく。16