ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2013

「木版裏彩色」表現研究- 3自由選択科目「構成(版表現)」における指導と制作大久保晃|造形担当Aquira Okubo研究所・総合デザイン科のカリキュラムには、自由選択科目が設定されている。この科目の目的は、原則として専攻や学年を超えて、自由に授業を受けることができ、さまざまな科目を設定することで興味ある分野を経験したり、学年を超えた交流をおこなうなど、より広く、より深く学ぶ場となっている。(カリキュラム要覧より)担当している「構成(版表現)」は自由選択科目のひとつとして開設されている。この科目は、多様な版技法による作品制作を通して各自の専門のどの部分に繋がっていくかを考えたり、複数で制作される「版」の意味や、哲学的な部分も誘発できるよう心がけている。具体的には、スクラッチイラストレーション、木版画、シルクスクリーン、エンボス版画の4つを指導している。シルクスクリーン技法以外はデザインから一見遠い感じがするが、これらが切り口を変えて学生のデザイン表現のサポートになることを実感してもらうことが大切である。指導の際には出来るだけ、学生と一緒に制作をするようにしている。特に木版と手彩色については、それまで本人にもまったく経験がなく、学生と共に試行錯誤して学んできた。その中で木版裏彩色に大きく興味を持つようになり、制作を続けて来た。版画の魅力はその制作過程での作業にあると思う。まず、制作途中に感じる触覚的な面白さである。銅版画では、銅板に傷を付けていく独特の抵抗感。シルクスクリーンでは。マスキング画面の隙間から絵具が紙に盛られていく感触。エンボス版画は、プレスされた凸凹の関係が逆になる不可解さ等である。木版裏彩色はその中でも制作中に触覚的感覚を大きく感じられる作業を伴ってくる。まず版木(シナベニア)の表面を角刀、丸刀の性質の違いを生かしながら削り取っていく作業は慣れてくると心地よい振動が伝わってくる。木版画の行程の中でも、この版木作り(彫り)が一番面白いかもしれない。次に、水性インクによる刷りであるが、ローラーによってインクの量を調節してのせることで和紙との馴染み具合が違って来て刷り跡に味わいが出来てくる。バレンを通してでも版木の凸凹具合が充分に伝わってくる。そこに刷りの醍醐味を感じることが出来る。これに刷り紙の裏から彩色することで表にダイレクトに彩色したものとは違い作品の輪郭等を気にせず、自由にはみだしたり重ねたりの開放された着色を楽しむ事ができ、表から見た時に思いがけない掠れや滲み等の風合いが生まれる。現在は速乾性のある樹脂絵具があるおかげで、自由で伸びやかな裏彩色の表現が出来る。42