ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

図C.「三つの歌」(鴨川デルタ)図D.「三つの歌」(鴨川デルタ)に、映画作品としてはストーリー展開を生み出し、テーマを実現するためのシーンのひとつになるように、テレビ広告では限られた時間と情報量のなかで、視聴者に対する身体的反応の共有を求めて、それぞれに工夫がなされていることも理解される。3.聴くためのプロセスの設計:京都・鴨川デルタの「三つの歌」と東京・原宿の「サウンドスケープ課題:明治神宮編」のあいだ。次に新たに見学調査で得られた経験が、講義や演習の受講生に取り組んでもらう課題を設計する際に直接、役立つことがあった。特に聴覚の操作・制御という、視覚以上に困難が伴う、サウンドスケープをめぐる課題の設計時に、京都で経験した作品がたいへん参考になった。スーザン・フィリップスの作品については、前回のレポートでもとりあげた。それは札幌での見学調査時にはじめて経験した、野外における音響メディア利用による作品であった[注5]。新たに京都の鴨川デルタで経験した響きも、複数のスピーカーから彼女自身の歌声を再生するというシンプルな仕組みで、札幌のそれと同じ技術利用によるものであったが、以前とは異なる体感を与えるものになっていた。今回の作品で、特に印象に残ったのは、日常の周囲の響きである。ふだん耳にしているにもかかわらず、あまり意識しない環境としての音響のありようを、改めて音風景として聴取する。そんなサウンドスケープの取り組みのなかでも、この作品の体感を通じて了解したのは、聴くためにプロセスをつくるというアイデアの創造性である。鴨川デルタは二つの川が一つに合流する三角州の河原である。この作品では川に架けられた橋の下に、それぞれスピーカーがぶら下げられている。そこからヨーロッパ中世の民謡をモチーフにした、フィリップス自身の歌声が時間差を置いて流されることで、デルタに身を置く観客の身体の上で、三つの歌声が次第に重なり合う。まるで作家が分身した上で、それぞれの地点から声を生み出したかのような、いわば独りハーモニーが聞こえてくる[注6][図C,D:筆者撮影]。それがひとしきり続いた後で、不意に歌声が止む瞬間が訪れる。すると、歌声に気を取られていたしばらくの間、歌声に混ざり合いながら響いてはいたものの、そこに関心が向けられることがなかった音が、意識のなかで浮上する。それは川のせせらぎ、橋の上を行き過ぎるバスや自家用車の走行音、青信号を知らせるサイン音など、そこを訪れたときから耳にしていたはずの、いつもの都市の響きにほかならない。はじめは一カ所から流れ始めて次第に重なり合い、少しずつ大きく複雑な響きに変わっていった後で、その響きが消えることで代わりに、都市の音風景が現れる。次いで同じ作家の手による、同じ街の他の場所で展示されていた作品でも、同じように聴取後における都市の響きの(再)浮上を経験した。京都市美術館の中庭で歌われていたのは「インターナショナル」18