ブックタイトル桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

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桑沢デザイン研究所教員研修会研究レポート2015

という理想を掲げた連帯の時代に口ずさまれていたものであった分だけ、それが止むことが時代の移り変わりを印象づけるものになっていた。それでも日常の響きを聴くためには、それを可能にするための方法や手続きが欠かせないことを、鴨川デルタのときと同じように実感した[注7]。サウンドスケープの課題を設計する際には、身体が音響をどのように経験するのかという時間的な変化を視野にいれる必要があり、よく聴くためのプロセスを構成するという、繊細な設計が重要になる。そこで昨年度、仮に試みたレッスンを、講義の受講生と共に、本格的な課題として取り組んでみた。それが明治神宮における音響記述の課題である。明治神宮は聖なる場所であり、私たちにとって非日常的な空間である。日常的な空間との境界にある入り口付近から本殿が置かれている聖なる中心に至るまで、非日常がどのような工夫や仕掛けで実現しているのかを、主に聴覚を手がかりにリサーチするように受講者へ求めた。その結果、宗教的な祈りの場所であるための仕組みや仕掛けを発見することができた。また豊かな生態系をもち多様な植物・生物が生息していること、海外から観光客が訪れる観光地でもあることが認識されることとなった[注8]。ここでは判明したことのなかでも、特別な場所としての聖性、静謐さを体感させるデザインにしぼってとりあげよう。入口の鳥居から参道を進み、途中で大鳥居をくぐり、本殿へいたる道のりのなかで、私たちは移動にともなう音風景の変化を順次、知覚することになった[図E:筆者撮影]。入口からしばらくは駅構内のアナウンスや電車の走行音、行き交う観光客が話す耳慣れないことばの響きが印象の大半を占める[図F:筆者撮影]。そのまま参道を進んでいくと、時間帯によっては祈祷の声や太鼓の音を耳にすることもあり、手水舎にたどりつけばお浄めの水音により、清涼・清浄の体感を得ることになる。そして本殿へ続く石畳へと足を踏み入れると、不意に静謐さを感じる瞬間がやってくる[図G:筆者撮影]。足で踏みしめる度に感覚していた玉砂利の音響と振動が突然止み、それに代わって風で樹木の図E.明治神宮図F.明治神宮・入口の鳥居図G.明治神宮・本殿19