ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

13人」と声をかけて募集する。1 クラス50 人のうち、最初は20 人以上の学生が意気込んで参加する。毎週30 枚、手・足を中心にいろいろなテーマを設定する。手・足を出題するのは、花や花瓶ややかんなどでモチーフを組んだりする手間は面倒くさくて、やりたくなくなってしまうからだ。自分の手と足はどこに行くにも自分に付いてくる。ちょっと目を動かせば自然に目に入ってきて足を投げ出したり肘をついたりというように鉛筆と紙があれば、いつでもどこでも描けるモチーフだからである。また。毎週30 枚という、多めの量だがいずれ1枚1 分程度で描けるようになることを考えれば一週間に30 分から1 時間程度の時間をとることはそんなに難しくないはずである。1 枚に1 分、その短い時間でいかに豊かな線を引けるか。しかしこの豊かな線は他人の線ではない。自分にとって美しい線を見つけることだ。 毎週、学生が描いて来たドローイング30 枚は持って来たその場で私の独断と偏見と感で、「良い」「悪い」に振り分けていく。最初の1、2 回に学生たちが持ってくるドローイングはとにかく酷い。線が硬くギクシャクしていて、短い線でビクビクと描いている。いわゆる「ためらい線」ばかりだ。どれだけ伸びやかな線を描くか、どれだけ描かないで表現出来るか。それを知るまで描いてほしいと学生に言う「今日。私の気分と感と造形体験によって選んだから、明日は幾分違う物を選ぶかもしれない」「A 先生が選ぶ良いものと、B 先生が選ぶ良いものと、私が選ぶものは違うだろうしそれでいいと思うよ」こうして1 年も半ばを過ぎると、20 人以上いた学生は半分以下になり、年度末には3 ?4 人しかドーローイングをしなくなる。そしてこの淘汰されなかった3?4 人の学生が頭角を現すことになる。夏休みあけから勢いをあげ、あんなに下手くそだった学生らが見事な線を引くようになる。1 週間に30 ?40 枚で、夏・冬休みの宿題を含めれば多い学生なら1 年間で1000 枚近いドローイングをしたことになる。これは凄いことだ。これでうまくならない訳がない。「量は質に転換する」とにかく酷いドローイングでも良いから,続けること。学生は1 年続けたことで、かなりの自身を持つようになる。そしてドローイングに味をしめたほんの一握りの学生が、2 年、3 年と授業の合間に描いたドローイングを持って来てアドバイスを受けにくる。学生は身につけた観察力と伸びやかでためらいのない描画力をもって他の課題にも生かせたと言ってくれる。3年間ドローイングを続けた中国の留学生 チョウさんは家の棚にドローングして積み上げた紙が70cm になったと言っていた。 ドローイングの地層のが出来た。ドローイングは対象を観察し、美しい線を探し引っ張り、そしていらない線を出来るだけそぎおとす作業。 ドローイングはどれだけ描かないで描くか・・・・・これが私たちのドローイングだ。ドローイングの指導をはじめて6 年が経った。毎年、年度末に最後までドローイングを続けた学生たちはリング式製本機で自分たちの作品集をつくる。中にはまだまだへたくそなドローイングも含まれているが、その成果は立派なものだ。学生たちは、制作したドローイング集に何か答えを感じているのがわかる。よくぞ一年間ドローイングを続けたと褒めざるをえない。「先生は今までに何枚くらいドローイングを描きましたか?」「そうだなあ、1 万枚は描いてるかな。でも私より巧くなる方法があるよ」「えっ、どうすれば先生より巧くなりますか?」「10001 枚描けばいいんだよ」