ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

57図B.「男はつらいよ 純情編」ビールビンの上に置かれたお猪口も本来の機能を果たすことなく、通常とは異なって仕方で使われることが観察できた。うわついたり、ごまかそうとしたり、ためらったり、がっかりしたりと、いつも本人にとってどこか思うようにならない様子が、それらの身近なモノが本来的には使われることなく、あまり円滑には使用できていないことを通じて示されている。 寅さんは旅先で偶然テレビに映し出された柴又と実家のだんご屋の様子を目の当たりにする。ここではテレビに媒介されることで懐かしさの感情が歓喜され、帰郷の動機が生まれている。「遠きにありて思うもの」だと自分に言い聞かせながらも、気持ちを抑えきれずに帰郷を果たすと、自分の部屋が他人に貸し出されてしまったことを知る。 案の定、寅さんは憤慨するが、しかしその部屋に入ったのは親戚筋の美しい女性で、居間からちょうど入浴中の女性の様子を伺う寅さんに注目すると、彼は手元に置かれていた赤ん坊用の授乳具をくわえている。女性に気をとられて落ち着かず、手と口が思わず動いてしまうほどであることが、このモノ利用を通じて示されている。 また寅さんは独立したい社員に相談されたときは社長を説得すると約束し、社長に社員を引き留めてほしいとお願いされるとそれも引き受けてしまう。その都度の感情にしたがう人のよさといい加減さのために、社長が開いた残留祝いの宴会では何も話がついていないことが明らかになり、双方からにらまれながらもごまかそうとする寅さんのお猪口は、誰にも注いでもらえずに宙をさまよう。結局お猪口が着地したのはビールビンの先で、居場所がない寅さんの状態をよく伝えている[図A,B]。 そういえば作品冒頭の旅先の車内でも、玩具を使って赤ちゃんを無邪気にあやしつつ、缶ビールを開けたときに、泡が飛び散ってしまうシーンがある。そこでも意図せず周囲に迷惑をかけてしまい、人騒がせではあっても、どこか憎めない人物であることが示されていた[図C]。 このようなモノの利用を通じて、それを用いる人物のパーソナリティや人物造形を実現し、作品世界のなかの周囲の人たちだけでなく、観客に対しても印象を与えられる。報告を聴いたクラスからのコメントとして、些細な道具を用いることで主人公の遣り場のない気持ちやことばにできない心情がうまく示されている、マンネリのなかに工夫がある、展開がおよそ予想ついていても笑ってしまう工夫がされていることを理解した、いずれも本来の使い方がされていないことを指摘してもよかったかもしれないなどの指摘があった。(2)正義の男と、私的制裁に陥らせるヒーロースーツ。?「スーパー!」:絵・コミック・テレビ・レンチ+ヒーロースーツ この作品では絵・コミック・テレビ・レンチなど、主人公によって使用されたメディアやモノの働きが観察されることで、それを通じて示される主人図A.「男はつらいよ 純情編」宙をさまようお猪口