ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

58公の複雑な性格のあり方を理解・共有できた。特に主人公の男性や彼の相棒として戦う女子高生が着用するヒーロースーツは命と実存をかけたコスプレであり、正義(の不在)を問うという作品全体のテーマからみても重要な働きを担っている。 幼少期から幻覚を見やすい体質だとされる主人公の男性は、自らのもとを元麻薬中毒患者の妻が去ったことを契機に、自分は神に選ばれたという宗教的な啓示を得る。またテレビ番組の「ヒーローもの」の原作コミックから「悪に立ち向かう心が人をヒーローにする」というメッセージを受け取り、ヒーローが着用するスーツを自身でも作成する[図D]。悪を裁くことを使命と見なし、たとえ並んでいた列に割り込まれただけでも、自分が悪事だとみなすとスーツを着用し、レンチで襲いかかるようになる。報告を聴いたクラスからは、いずれのモノも重いテーマをユーモラスに描くのに使用されているのだと理解した、主人公にとって非現実的で逃避的な行為であることを示していたのかもしれない、主人公が暴走する場面では視覚的な表現によりカトゥーンヒーローっぽさが出ていたなどの声があった。 作品ではその後、家を出た妻が身を寄せた先が麻薬の元締めであることを知り、主人公が妻の救出を企てるという展開になる。さまざまな犠牲を払い、元締めの男をいざ殺害しようとしたときに、正義による裁きと私的制裁(リンチ)との混同を鋭く指摘された主人公は一瞬、躊躇する。それでも彼を殺して妻を救い出すことを選んだ主人公は、その後妻のために活躍した場面を自分で絵に描いて「最良の日」として壁一面に貼り、妻が次に選んだ男とのあいだに生まれた子どもからの手紙を、喜びの涙を流しながら読む。 この作品では最後に観客へ向けて「きみにもわかるときが来る」というメッセージが残されるが、これらのメディア・モノの利用を通じて示された主人公の性格はそれほど単純ではない。スーツを着て戦うのは直接には自分自身を傷つけた相手に復讐するためか、あるいは自分自身にとって大切な人物を守るためだが、それが無根拠かもしれない不安に揺れ動き、使命としての正義の実現という大義に依存してしまう。作品自体はそんな複雑さを笑ってしまうことを勧めているのか、コメディーに分類されているが、いずれにせよ、このようなスーツをはじめとするメディア・モノ利用も、そのような複雑さにおいてパーソナリティを呈示しているという点で、寅さんの事例と共通する。2. イメージ・記憶の喚起(1)忠犬HACHI と、亡き主人を想起させる鉄道の響き。~「HACHI 約束の犬」:ボール+鉄道の音 この作品の報告では人と犬という異生物間の関係が遊戯的なボールのやりとりを通じて実現している様子が観察されたが、同時に電車の音に対する犬の反応も観察されることで、犬の視点からの独特の主観ショットを頻用した意味も共有できた。図 C.「男はつらいよ 純情編」泡が吹き出る缶ビール 図 D.「スーパー」着用されたヒーロースーツ