ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

ページ
62/78

このページは 桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016 の電子ブックに掲載されている62ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

60…」、「こんな体型だからこんなニックネームで…」と即応し、最後にもう一人の生存者から似顔絵がファックスで届くまで、警察と観客を騙し通すことに成功する。 それらのメディアやモノは犯人の想像力を触発し、架空の事件現場についての巧妙な嘘と物語を導き出す。ここでもHACHI にとっての鉄道の音と同じように、メディアやモノを介してイメージが喚起されている。報告を聴いたクラスからのコメントとしてチラシ、メモ、マグカップが観客を騙すために用いられているのを理解した、以前観たときは気づかなかったが騙すためにメディアが効果的に使われていたのを知った、シーンの分析を全体のストーリーに位置づけてほしかったなどの声があった。3. 社会・家族の形成(1)陪審員と、市民として着せてあげるジャケット。~「十二人の怒れる男」: 窓・メガネ・ネクタイ・帽子+ジャケット 市民社会をテーマにした作品では、窓やメガネなど、さまざまなメディア・モノが観察されたが、なかでもネクタイ、帽子に加えて、さらにジャケットが重要な働きを担うということが発見された。 ある都会に暮らす人びとのなかから、互いに見知らぬ十二人の男性が、息子が父を殺した容疑で開かれた裁判をおこなうために、陪審員のメンバーとして招集される。意見を交わし評決を下すために集められた裁判所の一室で、彼らは入室時には全員着用していたジャケットを次第に脱ぎ、ネクタイを緩めたり、締め直したりする。 メンバーが部屋に入った際に、あまりの暑さに換気扇のスイッチを入れようとするが、故障のためなのか、作動しない。それを受けて後半までずっと脱がないメンバーは粘り強さや議論への集中度の高さが、また中盤でネクタイを締め直すしぐさは気持ちを入れ直していることが、周囲の人物と観客へ向けて違和感なく示される。 報告を聴いたクラスからはストーリー展開に欠かせないメディア・モノについての観察の成果を共有できた、多様なメディアがとりあげられたのでそれぞれとりあげたシーンにそくして個々のメディアの役割を理解するのがやや難しかったといった声があった。 再び展開を視野にいれて観察すると、最初に有罪とは言い切れないという立場からメンバー全員での検証を導き続けた人物と、最後まで有罪を主張した人物とが、ジャケットを介して関わるシーンが見出された。最後まで有罪を主張した人物には息子がいるが、しばらく前から関係が悪化し、交流を断たれている。そのために父殺しの嫌疑をかけられた少年と我が息子を重ね合わせてしまい、証拠や証言を冷静に判断することができない。 彼が自分の感情と偏見によることを認めて、判断を変えることで、陪審員である12 人全員の判断が、ついに無罪に一致する。他のメンバーはハンガーに図G.「ユージュアル・サスペクツ」ロゴの記されたコーヒーカップ 図 H.「十二人の怒れる男」着せてもらうジャケット1