ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

624. ストーリー展開の示唆(1)チャップリンと、失恋を予感させて閉じる扉。~「サニーサイド」:扉・窓・垣根の戸 この報告では空間を仕切ることで隔たりをつくり出すモノを観察することで、それに媒介される人が何らかの関係や感情を生み出すことと、その後起きうる変化について予感をもたらすことが示された。 チャーリーと呼ばれる男性が、親しくなりたい女性の家を訪ねる。開いたままの垣根の出入り口から入り、家の扉を開けて中に入ると、そばには弟もいるために、念願の二人きりになることができない。それでもなんとか弟を追い出し、指輪を渡すことに成功するが、今度は父親に追い出されてしまう。 次の機会に再び訪れると、突然垣根の戸が閉まりかかったために、それを開けて窓辺に近づくと、いつもよりもおしゃれをした女性と自分よりもお金持ちそうな紳士、それを見守る父親の姿が見えてしまう。たぶん失恋してしまったことに落ち込みながら、チャーリーは自らの手で垣根の戸を閉ざして帰っていく。 扉を開閉することで男性と女性は出会い、指輪を贈って気持ちを表す。しかし窓の内側にいる二人が良い雰囲気であることを感じると、開けて入ることにはためらいが生じる。そういえば一度目の訪問時に開いていた垣根の戸も、二度目の今回は入ろうとすると自然と閉じかかり、彼女に近づくのをまるでじゃまするかのように働いていた[図K]。扉・窓・戸などの空間を仕切るモノは、それに関わる人物同士に特定の関わり方と感情をもたらすように作用し、さらには登場人物と共に作品を見る観客にも、次の展開を予感させることができる。 また垣根の戸があまりに見事なタイミングで閉まるのは、それが夢の中の出来事であるためかもしれない。二度目の訪問の後、彼女のことをあきらめきれないチャーリーは、紳士の真似をしてめかし込んで再訪問するが、指輪を突き返されてしまい、そこに居合わせた例の紳士にうながされて扉を出る。そして失恋に落ち込んだ彼が自動車に尻を向けて、自ら飛ばされようとするところで場面が転換し、いつもの職場でうたた寝してしまい、怒った雇い主に蹴られるシーンになる。じつは女性は紳士に奪われたりせず、チャーリーと仲良く紳士の旅立ちを見送り抱き合うので、二度目の訪問以降のチャーリーの不幸は、彼の夢の中の出来事で、実際には起きていなかったようにみえる。 報告を聴いたクラスからのコメントとしては、近づくと自然と閉まり失恋を示唆するという垣根の使い方があることを理解した、普通気が付きにくいところに着目できたことに感心した、空間に境目をつくることで物事・感情・物語を生み出すことを理解した、扉が内と外でラブラブと失恋とを分けるという指摘がおもしろい、メディアを使うことでコメディとしての笑いをどう実現しているのかをまとめられるとなおよいなどの声があった。図K.「サニーサイド」恋路のじゃまをする垣根の戸