ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

63(2)第三の男と、生死に関わる「四角いもの」。~「第三の男」:パスポート+ 棺・玄関・下水道 闇社会の大物とされる登場人物が用いる棺、身を隠していた彼が姿を現わすときの建物の玄関や下水道など、報告者によってその場で「四角いもの」とまとめられたモノが、生と死に関わる出来事や展開を生み出す様子が観察された。またハリーに関わる男女の感情のすれ違いを生み出すときにパスポートが利用された結果、彼の人物としての魅力が効果的に示されている。 世界大戦後の闇社会で犯罪に手を染めて生きるハリーは、死者のふりをしながらじつは生者で、しかし最後に本当に死者になる。最初に棺を用いることで、他人を身代わりにして、死者として入ったふりをする。次に建物の玄関で、すでに死者のはずなのに、生者として一瞬だけ姿を現わす。下水道という「巨大な棺」では警察に追いつめられて殺され、本当に死者になる[図L,M]。そして最後に再び棺へと、今度は間違いなく埋葬される。 このような軸となる展開は、冒頭で棺が疑問を抱いた者によって掘り起こされ、ふたが開けられ、なぜか遺体が不在であることが明らかにされることで生み出される。空の棺こそが不在の人物への関心を喚起し、次なる展開を期待させる。 このようなハリーをめぐる展開に、ウィーンへやってきたアメリカ時代の旧友で三文小説家のホリーと、ハリーの恋人で舞台女優のアンナが関与す図L.「第三の男」巨大な棺としての下水道1 図M.「第三の男」巨大な棺としての下水道2るが、このときにパスポートが用いられている。冒頭でハリーが棺に入ったこと、つまり死者になったことをホリーは信じるが、アンナは簡単には信じない。アンナはハリーと深く関わったために警察に目をつけられてしまい(警察がパスポートを回収)、アンナに好かれようとしたホリーは彼女を国外へ解放しようと努めるが(ホリーがパスポートを奪回)、ハリーと離れたくないアンナに断られてしまう(アンナがパスポートを破棄)。 この後、ホリーは警察に証拠写真のスライドを見せられ、ハリーの犯罪の重さを知ることで、彼をおびき出すことに同意する。さらに下水道の中で被弾し逃げる力を失ったハリーが、見ず知らずの警察官でなく、友人である自分自身に撃たれることを望んだのを見て、ホリーはハリーにとどめを刺す。 今度は本当に死者となったハリーが棺に埋葬された後、ホリーは改めてアンナの元へ向かう。しかし完全に無視されたまま独り残され、通り過ぎる後ろ姿を茫然と見送る。彼女の目には、彼は愛する人を裏切り、敵である警察に売って殺してしまった男として映るほかはない。その都度の正しさに反応する無垢で聖なるホリー(Holly)と対比されることで、アンナと共に私たち観客には、ハリーの怪しい魅力が改めて印象づけられる。 報告を聴いたクラスからのコメントとしては、アパートの扉の前に立つシーンと棺に入るハリーを結びつけたこと、扉の形が棺に見えるという指摘が興味深い、ハリーとホリーという対照的な二人を明暗