ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

ページ
67/78

このページは 桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016 の電子ブックに掲載されている67ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.44 2016

65図O. 「赤い風船」少年の側にいる風船図P.「赤い風船」子どもたちに捕まった風船方を通じて少年と風船との独特の関係性が生まれていること、さらに今度は少年を介して風船相互の関係が生み出されていることが示された。 少年が偶然街灯にからまっていた赤い風船を解き放ってあげたことから両者の関わり合いは始まる。いっしょに傘に入れてもらったり、互いにかくれんぼをするように歩いたり、自らを連れていったために学校で叱責され隔離されてしまった少年を風船が気にかけて助けようとするなど、どちらかが一方的に支配したり依存したりするのとは異なる、互いにより自由な関わり方が生み出される。特につかませたり、つかませなかったりするという、ひもの扱われ方を通じて、互いに拘束することなく、でも側に居合わせるという距離感が実現されている[図O]。 このような特別な関わり合いに、周囲の子どもたちが嫉妬を覚えて、少年と赤い風船とのあいだに、子どもならではの残酷さで介入する。彼らは赤い風船にわざわざ長いひもをつけ直すことで、一方的に縛りつけて支配しようとしてしまう[図P]。その結果、赤い風船は割れて二度と飛べなくなるが、そのことに深く悲しむ少年のもとへ、今度は街中の他の風船が集まってくる。 それ以前のシーンでも、街中で少年と共にいたときに少女が連れた青い風船とすれ違い、赤い風船にも他の風船との関係があることが示唆されていた。少年がたくさんの風船と空を飛ぶというエンディングは、赤い風船と特別な関わり合いをしてくれた少年だけに、他の風船たちが特別に素敵な体験をさせてくれたのだと理解しても、それほど的外れにはならないだろう。 報告を聴いたクラスからは、空を自由に飛ぶ風船はいつも親や先生に押さえ込まれている少年の憧れだという指摘を理解した、風船のひもをつかむことで自由を拘束されてしまうので風船はつかまらないように逃げるが少年だけにはつかませるので手をつなぐように見えるという解釈が面白い、少年を他の子供や大人から孤立させる働きもあったのではないか、風船がメディアというよりキャラクターのように思えた、子犬と比べて考えてみても面白いかもしれないなどの声があった。6. まとめ 本稿でとりあげた創造的なメディア・モノ利用は、いずれも受講者と共に取り組んだ課題「映画の観察」を通じて見出された。改めてふりかえると、寅さんが用いる「お猪口」、男が着用する「ヒーロースーツ」、HACHI が耳を傾ける「鉄道の音」、詐欺師が目に留めた「カップ」のロゴ、陪審員が他のメンバーに着せてあげた「ジャケット」、野原家が夢見る夕食の「焼肉」、チャップリンの恋の行く手を阻む「垣根の戸」、闇社会の大物が出入りする「四角いもの」(棺・玄関・下水道)、アナ雪の姉妹のあいだを結ぶ「雪だるま」、少年と互いに自由に関わる「赤い風船」などが観察された。 このようなメディア・モノ利用は、作品に対して