ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

ページ
27/90

このページは 桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017 の電子ブックに掲載されている27ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

この文章は、数年前の研究所卒業生が私にくれた手紙である。彼は幼い頃から鬱病に苦しんできた。彼のどんな追体験やトラウマ等が関係しているのかは分からないが、長年に渡りこの気分障害に苦しんできた。研究所をなんとか卒業し、就職もデザイン関係の仕事に正社貝として採用され、少しづつ社会の中で順調に過ごし、落ち着いてくれることを願っていたが、彼は3ヶ月で退社してしまった。人間関係というよりは、社会の中にうまく入り込んでいけない彼を感じた。退社後、彼は半年近く布団の中に入り天井を見続けていたという。幸いにも実家にいたため、なんとか食事は取っていたので大変なことにはならなかった。その後何度かメールのやり取りをしたり、彼が研究室を訪ねてきてくれたりして様子を聞いたが、彼独特の無表情で血のかよわない姿は在学中と変わらず、今もなんにも目標を感じない自分を見せにきているようだと思った。早く人生を終わりにしたいと何度も呟く彼に言ったことは、「他に何もしなくていいから、とりあえず、ご飯食べて、眠って、うんちして生きてたら」、「ひょっとしたら、君の人生にいいことなんて一個もないかもしれないけれど、苦しいから死にたいというのもなんかだらしない感じがするから、苦しいまま生きたらどうだろう」と伝えた。病気も怪我もその苦しさや痛さや、不安や絶望は当人以外は絶対分からない。「その苦しさ私にもわかるよ」という健康な人からの励ましほどいい加減で無責任なことはない。天井を見つめて寝ていた彼は、半年目近くで学生時代にアルバイトをしていた頃の居酒屋の店長から電話をもらった。店長は彼のことを可愛がっていたので、心配して電話してきた。店長の薦めでまたアルバイトをするようになった。それがひとつのモチベーションになったのか、就職活動をするべくポートフォリオを作り、私に見せに来た。内容もかなりよく、レイアウトも充分で彼に才能を感じた。人にできるだけ会いたくないという彼が、あらためて人に会わざるを得ないデザイナーという仕事に再度挑もうとしている。あれだけ見事なほどネガティブに全てを捉えながら生活していた彼に一体何が起きたのだろうか。気分障書とは気分障害(きぶんしょうがい、英:mood disorder)は世界保健機関の「疾病及び関連保険問題の国際統計分類」においては、感情障害とも記載されている。短長はあるものの一定期間継続する気分(感情)により苦痛を感じたり、身の置き場のなさを体験したり、無力感に襲われたり様々な症状が現れる。それはもちろん通常の生活が送れない状態にもなってくる。「気分障害」という名称にはある程度の理解を示せるが「精神疾患」、「心の病気」、「メンタル」には違和感を感じる。前回の研究レポートにも書いたが、気分障害は決してメンタルな病気ではないと考えている。脳内の機能不全や脳内物質の分泌不足であったり、極めてフィジカルな症状と言っても良い。従っ25