ブックタイトル桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

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概要

桑沢デザイン研究所 教員研修会 研究レポート No.45 2017

を満たさない程度の軽躁と抗うつエピソードを満たさない程度の抑うつが長期間にわたり交代し続ける気分障害であり、本人や周囲の者はこの周期に気付きにくく性格上の問題であると片付けられてしまう場合も少なくない。双極性障害I型・II型に対してラピッドサイクラーは躁と鬱がかなりのスピードで入れ替わり、一般社会の中での立ち位置が見出せず、完全に創作の中に入り込んでしまうことも多い。普通、躁鬱症状の場合躁の時に面白い作品や興味深い作品を作る。ではうつ状態の時は何も出来ず沈み込んだ状態ではなく、躁状態での成果を作るためのアイデア創出時間と考えてもいいだろう。外部からの気分障害への影響酒を大量に飲むアーティストはたくさんいる。自分の制作の上でのスランプや苦悩を紛らわすために大量飲酒になることも多く、またそのことにより新しい作品ができることも多い。これをアルコール誘発性気分障害という。アルコールと気分障害の関係はいろいろと議論されてきたが、アルコールの乱用は大量飲酒者の多くが抑うつを発症する直接の原因になると結論している。しかし、妙な言い方だが制作の一助ともなるアルコールが制作成果とともに失業、暴力、高い自殺率などネガティブな結果に向かうことになる。まさに気分障害は身を削って秀作を残していく礎にさえなっていることが興味深い。多くの著作が、気分障害は「進化的適応」であるとしている。落ち込みや抑うつは、危険や損失、無駄な努力をもたらす目標追求に対しての状況対応能力を高めるという。そのような状況では低い動機付けが、特定の行動を抑制することによって利益が得られる。抑うつ気分は地位の損失、離婚、子供や配偶者の死など、人生において生じる特定の種類のありきたりな場面で起こる。これらは人間の可能性を知らせる出来事で人類の祖先の生活環境にも存在していたエピソードである。抑うつ気分は前述の通り人間が受け止めなければならない。抑うつ気分はインフルエンザのような病気の最中には、一般的に発症する。病気により身体活動を制限することによって回復を助ける進化した機構であると考えられてきた。冬の季節に生じる低水準の抑うつ、あるいは大昔からの食物に乏しい期間の身体活動を制限することに鬱が貢献しているとも言える。冬の季節に代表されるように、そのような環境で落ち込んだ気分を体験することは、人類が保ってきた本能であると言ってもいいだろう。これは、病や悪環境の中でしか深く味わいのある作品がなかなか表出されないことで証明される。では、苦悩の中にしか表現の源はないのかといえば、限定は出来ない。恵まれた環境で、親の七光りも充分あったり、運の良さも手伝って、見事な作品を残しているクリエーターも多くいる。しかし、自分の環境の酷さに気付かず、かつ苦しみもがきながら、なぜ自分が何かを作らんとしているのか解らない姿には、マイナスであるはずの鬱状態をエネルギーに変えながら継続している喘ぎを感じずにはいられない。そもそもの『うつ病』鬱病の有病者数は世界で4億人ほどで一般的であり世界の障害調整生命年(DALY)において第3位に位置付けられる。しかし多くの国では治療に繋がっておらず、日本を含む先進国であろうと、適切に鬱病と診断されていないことが多く、その一方では鬱病と誤診されたために間違った抗うつ薬投与がなされている。WHOは鬱病の未治療率を約57%と推定し(2004年)治療への新展開を模索しているようだ。これほど判断を決定していくことの難しい症状はない。気分障害者は多くの誤解と偏見、先入観に晒されることになる。怪我や癌他MRI、CT、内視鏡等ビジュアルとして確認できる疾病と違い、気分障28